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多様性がテーマの子供向けミュージカルが良くてダメだった噺

えー、親は子どもに自分がやりたかったことをやらせようとして、なりたかった自分に育てようとするなんて話はよく聞くところですけれども。

僕にも5歳になる息子がいるんですが、わずか1歳の時から英語教育を始めてまして。

僕自身はいちおう親に大学までは出させてもらってるもんなので受験英語はそれなりの点数が取れるくらいではあるんですが実践英語と言いますか、英会話の方はお恥ずかしい話からっきしでございます。

世の中には、人間の得意な情報の受け取り方考え方みたいなそういう分類をつける適性診断みたいなもんがあるそうでして、視覚優位とか聴力優位とか言語優位みたいな言い方をしてるみたいですが僕はもう聴力が全然ダメなんだろうなっていうのはずっと前からわかってることで、耳から入ってくる情報の処理がとにかくガバガバで全然ダメなんです。たとえば最近イッキ見したアニメ、機動戦士ガンダム水星の魔女ですが、12話まで見ても登場人物のキャラクターをひとつも覚えていない。主人公の赤いたぬき、白いプリンセスヒロイン、ピンクのメッシュ、その弟、氷のやつ、そのそれぞれの親、と、顔はわかるので話はわかるしオッケーのノリでseason1の視聴を終えましてめちゃめちゃ面白いので絶対みんな見たほうがいいですよ。

要するにわたくしは耳が終わってるので聞き慣れない単語は聞き取ることができないし記憶としてインプットすることもできないんですね。なので当然アウトプットの発音もままならなくて、俺が「アップル」というと息子に「お父さん、違う違う、appleやで」と言われてしまう始末です。

それくらい自分ができない英語なので息子はもう少し耳がちゃんと機能して英語に触れられる人間に育ってほしいなと思い、息子には幼い頃から英語教材を与えてですね、訓練に励んでいたわけでございます。

えー、ここまでの説明をする流れで、その前段で英語ができる息子に発音を指摘されるエピソードを挟んでしまうとエクセル関数だったら循環関数ですとエラー表示を吐かれてしまうかもしれませんが、これをお聞きいただいているみなさんはコンピュータではなく人間なので、なんかうまいこと処理しといてください。

しかし親の思った通りに子供が育つだなんて、はなはだ大した思い上がりでございます。それでも自分の今の不遇や体たらくが身に染みていればこそ、我が子の明るい未来のために何かしてやりたくなるのもまこと誰の身にも覚えのある不遜で立派な愛情でございます。今日お話するのはそんな英語教育のなかでのちょっとした一幕です。

あのー、その英語教育の一環で、息子とミュージカル行ったんすよ、ミュージカル。ちょっと俺にはもともとどこの国の方なのかはわからないんですけれども英語ネイティブの役者さんたちが歌って踊る英語ミュージカルみたいな催しが近所であって、それを観に行ったんですよ。

で、その内容というのがいわゆる多様性をテーマにした感じのやつでして。なんか、それぞれに赤とか青とか緑とか黄色とかピンクとかライムとかのキャラ固有のテーマカラーを持つ6人のメインキャラがまず最初にいて、そいつらみんな衣装はそれぞれのテーマカラーに沿ってて、なんか6人で楽しく歌って踊ってるんですよ。で、そいつらがみんなでピクニックに出かけるとなんか一人、知らんやつを見かけて。そいつは衣装がパッチワークみたいなチグハグで靴下の左右の色も違えばベストの左右も色が違うみたいなやつで、こいつを便宜上この後はレインボーと呼びます。このレインボーがやんわり仲間はずれにされるっていう物語なんです。

基本は子供向けのミュージカルなんで、楽しい歌とダンスで進行していくんですけど、いつも端っこの方でレインボーが混ざりたそうにしてる。というか同じ舞台上にいるんだから実質混ざれてて、一緒に踊ってるんですけど、明らかに仲間はずれにされてて。ペア同士で踊るダンスのシーンでも一人だけポツンとされてるみたいな。舞台はずっと楽しく進行していくけど、常にその端っこに居心地悪そうなひとりぼっちのレインボーがいるんです。

でも実はその単色6人組のなかの青だけは二人でレインボーと遊ぶシーンとかも都度都度挟まってて。みんなはレインボーと遊びたくないらしいけど、俺は全然レインボーのこと嫌いじゃないし一緒に遊びたいなーみたいな話が挟まってて。

で、ピークになると、遂に青がレインボーと遊んでるのが、他の仲間にバレるわけですよ。そしてなんとここで、青がめちゃめちゃ他の5人に詰められる。先ほどお話した通り、僕はほとんど英語を聞きとることができない「ああ、これはカステラなんだ」と思った江戸時代の長崎のお侍さんくらい英語を聞き取れないんですけど「ディファレント」は聞き取れましたね。あいつは俺たちとは違う、あいつは俺たちの仲間じゃない。お前はいったいどっちの仲間なんだと青が仲間たちにめちゃめちゃに詰められる。青もレインボーみたいに迫害されちゃうのが怖いからその圧力に屈してしまう。お前なんか仲間じゃない、と半ば言わされて6人の輪に戻って踊り狂う。

しかし、その時言った言葉は青の本当の気持ちではありません。その後、青は一人こっそりとある井戸に訪れます。その井戸は、願いを込めてコインを投げ入れればその願いが叶う不思議な井戸だったのです。レインボーも含めてみんなで仲良くなれるようにと思いこの井戸を訪れた青でしたが、コインを入れようとしたその時うっかり足を滑らせてコインを持ったまま自分ごと井戸に転落してしまいます。

バッシャーンという井戸から聞こえる音を聞いて5人の仲間が駆けつけるもどうすればいいかわからずみんなは大混乱。そこに遅れて駆けつけたのがレインボー。レインボーは青と一緒に遊ぶ時に使っていた七色の縄跳びを井戸に投げ込み、他の色たちと力を合わせて青を井戸から引っ張り上げます。それをキッカケに、単色の青以外の5人は考えを改めます。レインボーはもしかしたら良いやつなのではないのかと。そして、改めて青はレインボーに謝ります。

「あんなこと言ってごめんよ、僕と君は仲間だよ」

他の単色メンバーもレインボーのことを仲間と認めて、最後は単色メンバーたちもお互いの衣装を一部交換しながら複色になってみんなで仲良く歌います。みんな違ってみんないい!人それぞれでいい!多様性最高!みたいな、英語はたぶんそんな難しいこと言ってないけどそういうメッセージを込めて、レインボーをセンターに置いて歌って踊りまくってフィナーレです。

 

いやー、素晴らしい観劇体験でございます。こんなざっくりなネタバレあらすじを聞いただけでもう最高ですよね。そのうえ僕の5歳の息子なんかは、レインボーが仲間はずれにされてる描写が始まったところからはずっとご機嫌ななめで、見るのを拒否するかのようにふにゃふにゃしてて、だけど食い入るように三白眼で舞台を眺めてて、後で聞いたらレインボーが仲間はずれにされてるのに怒ってたそうです。レインボーをよそにみんなで楽しんでるシーンではさっきまでやってた手拍子をやめて固唾を飲むように泣きながら崩れ落ちながら舞台を見守ってたのは、レインボーを仲間はずれにするみんなに怒ってたからだと聞いて、優しいやつだなーと笑えました。そして、レインボーが仲間入りできた後は泣きながら緩やかに手拍子をしていて、体はそこまでハイテンションにならないけどそれでも「よかったよかった」と小さく手拍子する5歳児はめちゃめちゃ面白かったです。そして、英語のわからない僕はここまで語るうえで僕の語彙力の中での判断で「仲間」と言っていましたが、作中では「friend」と言っていました。

 

 

えー、ところでですね、そんな大変感動的な芝居の全ネタバレをしたところで恐縮なんですが、実はわたくしまだ言ってないことがございまして、この多様性をテーマに描いた子供向けのミュージカル、キャスト全員白人だったんですよ。

 

最初に国がわからん英語ネイティブ言うてましたけど、もしかしたら純潔の白人じゃない人もいるのかもしれないけど黒人はいなくてアジア系もたぶんいなくて、とりあえず何が始まるかわからないまま幕が開いた時のパッと見「ホワイトウォッシュっぽいな」と思って、その後見てたら多様性の話に向かっていったので内心そこで笑っていた。

 

おーい!思って。

多様性の話しながら全員白人やんけおーい!思って。

もしここに黒人入れたらカラーの話濁るんかいおーい!思って。

 

あと面白かったのが、レインボーの役の人が、色とか関係なくルッキズム的に他の役者陣に負けてたっていう。単色カラーチームの男性、全員モデル体型なんですけど、レインボーだけ中肉中背で、脚の長さの違いがメジャーなくても分かるくらい一人だけ短いんですよ。

おーい!思って。

お前それ色関係ないやんけおーい!思って。

歌って踊れる中肉中背に「君はレインボーにピッタリだね」言うてたやろおーい!思って。

モデル体型白人をレインボーに当てる構想なかったんかいなおーい!思って。

 

あともうひとつ言うと、井戸から青をレインボーが助けるシーン、アレがなければ仲間になれなかったんかい、てツッコミも僕の中であって。

ワンピースは「オカマだけど良いやつだった」みたいなのがよくあるけど、「え、性格が悪いオカマは差別していいの?」みたいな、そういう問題があるから、限りなく危ういぜ!と思った。でも、この部分に関しては、子供向けのミュージカルなので「仲間はずれにされても、自分がやりたいと思う善性を発揮しよう」ってメッセージだと思うので上段の二項目に比べると、そこまで咎めたい気持ちはない。

 

はい、ここまでで一区切りでこの噺も終わりに向かっておりますけれども、

楽しいミュージカルを見ました。

ツッコミどころがありました。

ただその話をしたかっただけで、ここを直せ、どこが間違ってるのがけしからん、そんな話ではなくて。

わたくしが見たミュージカルはきっと、これからの未来を作る子供たちに今よりずっと優しい世界を作って欲しくて出来上がった作品なんだと信じて疑わないですし、実際にそうなのでしょう。それは親が子供にあーしろこーしろという愛情と何も変わらないでしょうし、そしてその愛情は本当だったとしても言葉足らずだったりお門違いだったりてんで的外れだったりするかもしれません。

みんな好き勝手に受け取れば良い。持ち帰りたいものだけ持ち帰ればいい。捨てたいものは捨てていってほしい。

僕たちはみんな自由を求めているけれど、どうせみんな不自由だから、せめてできるだけ要らないものを手放してほしいと願う。当たり前のように次に繋ごうと思って握っているバトンとかタスキとかを、受け取らないでほしいと思う。

人間はみんな馬鹿なので間違えちゃうことを落語を思い出して、入りだけでも落語っぽくしようと頑張りました。

 

えーと、お後がよろしいようでって英語でなんて言うんでしたっけ?それではみなさん聴いてください、デイアフタートゥモローで、『そして僕にできるコト』。

 

以上です。