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悪い芝居vol.24『アイスとけるとヤバイ』感想文

みんな簡単においそれとそれはもう簡単に「最高の夏にしようぜ」と最高についても最低についてもろくに考えたこともない癖に無責任に言うけれど、本当に最高の夏はこっちから迎えに行かないと絶対にやってこない、天照大神様と同じくさんざん騒いで歌って踊ってやっと少しだけ顔を出してくれるそんな最高の夏を、悪い芝居が首根っこ捕まえて連れてきた、客席の前に引き摺り出してやった、そんな感じのスーパー最高盆踊り芝居だったぞこのやろー!!

はい、ズイショさんがもうかれこれ10年近く追いかけ続けてる京都を拠点にした客席に人がいると舞台上で何かしらわちゃわちゃして楽しませてくれる集団「悪い芝居」の公演を久しぶりに観に行ったんだけどめちゃくちゃ最高だった。

大阪公演まだやってるよ、仙台公演、東京公演も控えているよ、全員観に行け、来年の夏も再来年の夏も夏という季節が来るたびにきっと思い出せるそんな記憶を脳に刻めるのはこの夏だけだ。

悪い芝居の最強の盆踊り、見逃すと次はいつかわからんから、天照大神に後ろ髪はないから、この夏見よう、盆踊ろう、てめえのてめえを悪い芝居と一緒に弔おう。

「夏らしい」話というのは公式もずっと言ってたことだけど、平成最後の夏以来の一年ぶりの令和最初の夏の再演、その幕開け一発目を大阪HEP HALLで見た俺にとってそれは見まごうことなき完全な盆踊りであった。別に誰も死んじゃいないし、誰も誰のことも弔ってはいない。けれどそれは確実に確実に盆踊りだった。生者の祭典であった。

盆踊りはもういない人を死に捕まった人を悼む催し物のはずなのに、なんであんなに陽気で呑気で馬鹿馬鹿しくて笑えるのだろう。

それは、死者のためのイベントだなんてのは建前に過ぎないからなんだよ!!

死んだやつのためにいちいち予算なんて組んでられるかよ!!俺たちは生きるために、生者のためにカネを使うんだよ馬鹿野郎!!

あまねく盆踊りは生者のためのものだ、遺された者のためのものだ、もうすでにそこにいない二度とおはなしすることのできない誰かを弔うことで生者はまた来年の夏まで生きていけるから、だから俺たちは踊るのさ!

生者は何も死者に遺されたものに限らない。いつだって我々は未来から、過去から、今この瞬間に置いてけぼりにされたまま今を生きるより仕方ない、ならば生きるしかないんじゃか、今この瞬間を生きるしかないじゃんか、点と点とが線になって繋がるこの時代を、この歴史を、毎日寝て起きて歯を磨き飯を食い生き続ける我々は1日で24時間移動する点Pじゃーい!!わっしょーい!!

そんな僕たち点Pは、そうは言っても点Pにはなりきれなくて、90分前に時速180kmで出発した弟を時速220kmで追いかけ始めたタカシくんのようには割り切れなくて、いや、めちゃめちゃ速いやないかーい、めちゃめちゃ突進力のある兄弟やないかーい!!二人はどこで出会うの?浜松?タカシくんは広島の出身じゃとして、広島じゃとして浜松?全ての道は浜松に通じるのかい?そんなわけあるかーい!!鰻は結局このまま絶滅するんかーい!!正解は10年後!!乞うご期待!!

点Pに過ぎないはずの我々は、健脚のタカシくんのように点Pであることを割り切れず徹しきることができず、時たま迷う。迷いまくる。今のままに留まり続けたいと思うし、一飛びに未来に行きたいと思うし、今と少し違うパラレルワールドのとなりの今に思いを馳せたりしちゃう。弱いから、寂しいから、一人で今を生き続けるのが大変だから。

今回の悪い芝居は、そんな意味もなく天を仰いで今ここではないどこかに思いを馳せてしまう僕たちの顔面を踏みつけて、高く飛ぶ。今この瞬間を高く高く飛ぶ。今ここで跳ねるしかないんだ、翔ぶしかないんだ、踊るしかないんだ。雄弁に力強く、高く高く舞い踊る。最高におちゃらけてあっけらかんと馬鹿馬鹿しく高く翔ぶ。

だからやっぱりこれは盆踊りだよ。一年で一番暑い夏、生者による生者のための、最終的にはこの今にしか収束しない過去も未来も全部抱きしめる、今この瞬間にしか存在できない盆踊りだ。

遺されたものでやるしかない、遺されたものだけで考え続けるしかない。それはわかっているけれど、それだけではあまりに寂しいから、昔むかしの人びとは、茄子と胡瓜を使いにやった。死者を迎えに行かせたのだった。だけど本当は知っている。割り箸を突き刺した茄子や胡瓜に乗っているのは、死者の魂なんかではなく今を生きる自分の心だ。どこまでも高く高く自分の心を翔ばそうと、人は遺された自分の今を茄子と胡瓜に託した。かつて茄子と胡瓜に託されたその使命を、山﨑彬は今回、ギャルに託した。

本当の本当に最高の芝居。このうだるような暑さを生きる、今この瞬間にしか生きられない全ての人に見てほしい最高の茶番劇、盆踊り。

何より感動するのは、結局この芝居は悪い芝居脚本演出出演の山﨑彬の基本的モチーフを芯に据えて作られた芝居であるということ。自分が覚えている限りでも『なんじ』『キョム!!』『らぶドロッドロ人間』『春よ、行くな』『スーパーふぃクション』『メロメロたち』と(他にもたくさんあるだろう、何なら毎回そうだったろう)手を替え品を替え、悪い芝居の中で通奏低音として問いただされ続けてきた「離れ離れになってしまって、それでも好きで思い続けて恋い焦がれて、あなたのことを考え続けたとしても、自分の記憶を頼りにあなたがそばにいたらと愚直に思い続けたとしても、その記憶を頼りに私が思い続けたあなたはあなたの実像から遠ざかってしまうの?いくら私があなたのことを思い続けても、私の前からいなくなってしまったあなたは、もうどこかに行ってしまうの?」というテーマについてもあっけらかんとアンサーを提示する。

初めて悪い芝居を見る人にも、ずっと悪い芝居を見続けては人にとっても最高。

毎年やってほしいけどなかなかそうも行かないだろうから。誰も見逃すな。刮目してベロを噛み切って笑え。本当に最高だったよ悪い芝居『アイスとけるとヤバイ』。

大阪も仙台も東京も、どうぞ皆さま足をお運びくださいませ。

以上です。