ま、なんか荒れるの自体は仕方ないしマヂカルラブリーが優勝はおかしいみたいな人がいるのも全然妥当なんだよね。だって最終決戦だと7人中3人しか投票してないんだから。過半数割ってるじゃん。でも、他の4人も2と2で割れちゃってるからルールの上では3を取ったマヂカルラブリーが優勝。それだけっちゃそれだけの話なので、別に今起こってる喧々諤々は不思議な話ではないからね。こちとら、大阪市民なんでこの前まで都構想やってましたからね。一応多数決では反対派多数になったけど、約半分はその結果に納得いってないんだから。多数決ってそういうもんだよねーと思う。まあ俺もおいでやすこがが優勝はやだなーってだけ思ってて、それは俺の好みで言えば、センターマイクを境にお互いがお互いの得意なことをやって笑わせるっていうあの感じがなんか嫌だったから、でもまあマヂカルラブリーは笑ったけどめちゃめちゃだから票を稼げるかはわかんねえし、見取り図は見取り図で正統派しゃべくり漫才だけど行儀良すぎてなーみたいなんで全然誰が優勝になるか全くてんでひとつもわからねえなーて思いながら見てたし。そしてその結果、割れに割れて、本当にたまたまマヂカルラブリーが勝ったってだけだから、まあそれについての受け止められ方が荒れるのはどうしたって仕方がないよねー。
なので、マヂカルラブリーのアレ(特に二本目の吊り革)が漫才なのかどうかという議論を真面目にやるのもあんまり意味ないしな、マヂカルラブリーに勝って欲しくなかった人たちにとっては「本当に勝って欲しかった人たちのやってた漫才こそが本当の漫才」なんだから、あんなもん漫才じゃないって批判が起こるのはそりゃそうだよねって感じ。
そういうわけなので、マヂカルラブリーのアレは漫才かどうかという話は一旦脇に置くとして、「マヂカルラブリーの優勝はものすごくM-1的だったよ」ということは確信を以て言えるよ、という話をしようかなと思ったんです。以下はそういう話です。
マヂカルラブリーの準決勝でやったネタ、つまり今年一番の勝負ネタはやっぱあの吊り革だったという話を見かけました。そして、準決勝でかけた一番の自信作を決勝の一発目にかけるのがM-1のセオリーであるというのもよく聞く話です。そりゃあ、自信作温存して最終決戦に行けなくて披露の機会を損失したら元も子もないので、それはそれでというかシンプルに、非常に合理的な決断です。
でも今回のマヂカルラブリーは、吊り革を温存する策を本番中の他の芸人のネタが繰り広げられている最中で積極的に採用したとのことでした。これひとつ取ってもすごくM-1だなと思ったんだよねぇ。いや、そうしないでいきなり吊り革ぶつけた方が、ラク?ラクかはわかんないけど、それなりにおいしかったと思うんですよね。今回、まあ言われてるのだと「うるさい漫才が多かった」とかありますけど、あの流れで前半のくじ順を引かずに後半で吊り革ぶっ込んでたら、そりゃあまあどうしたって変化球になるのでウケるだろうし、最終決戦に上がれてたんだろうと思います。そして最終決戦でフレンチをやってたら、まあそこそこにウケて優勝はできてなかったんだろうなというのは安易に想像がつく。でも、それでいいんですよ本来は。今マヂカルラブリーがすごく反感を買ってるのって結局は優勝したからで、だから文句を言われてるだけで、優勝さえしなければ「私は面白かったけどなー」の声だけが残り、それなりにおいしかったんだろうなと思うんです。最終決戦でフレンチやって仮に0票になったとしても、いつかのキングオブコントのロッチみたいな感じでそれをネタにしてバラエティ番組で戦う一つの手札にしたって2021年を十分戦えたはずなんです。
でも、まあ、その道をマヂカルラブリーは選ばなかったんですよね。それはもう流れ、くじ引き順としか言いようがなかったと思う。終わってみて思えば、その時二人はこれワンチャンいけるぞ、てなったんだと思う。
今年ってさ、センターマイクに身を寄り添えてやる漫才が多かったよね。というか、マヂカルラブリー以外だいたいそんな感じだった(気がする)。例年ならもっと舞台を縦横無尽に駆け回る奴らがもう1組2組いてもおかしくないところだったんだけど、今年はどういうわけかあんまりそういう奴らが決勝に残ってなくて、そしてあの空気になってたんだよなー。で、それなら一本目フレンチでもなんとかワンチャンあるんじゃね?てなったと思うんだよね。フレンチのネタ、最初かったるいんですよ、土下座の姿勢で奈落から上がってきて挨拶でもうボケるっていう貯金はあるものの(あるからできたんだろうけど)その後の最初の1分あるかないかくらいは村上によるフレンチのマナー解説が中心で大きな笑いどころは全然ない。センターマイクに寄り添って二人がなんか喋ってる、古風な漫才スタイルでのフリが、まーめちゃめちゃ長かった。で、そこからやっと「俺やってみるわ」の漫才コントが始まって、いきなりのガラスバリーン。これがぶっちゃけ一本目フレンチの笑いのピークだったと思うんだけど、この1分あるかないかのフリは、マヂカルラブリーのネタの中で作ったフリに留まらずそれまでのM-1決勝戦の演者がやったネタ全部をフリであり、それら全てをフリにしたガラスバリーンだったように思われる。そして、マヂカルラブリーの2人ではなくM-1全体が作ってくれたそこまでに出来上がったフリを信じて賭けた選択だったように思われる。いきなり吊り革やってもウケるだろうけど、今のこの流れなら序盤をフリに注ぎ込むネタをやっても追い風が吹くんじゃないだろうか、みたいな、そういう算段があったうえでの選択だったんだろうなと思うのであった。
とは言え、最大風速はあのガラスバリーンのところで、そのあとは持久戦とまでは言わないまでも凌ぐ戦いであったのは間違いないところで、爆笑の渦とは全然行かずの2位通過だったね、て感じ。
そして最終決戦、ここで吊り革なんだよね。王道しゃべくり漫才をやってのけた見取り図の後にアレをやる。そして、アレをフレンチの後にやること自体が、そこまでの全てがフリになるんだよね。フレンチのネタは最初の1分くらいは野田クリスタルが普通に会話に応答して、その後に延々馬鹿をやるネタで、吊り革はそれをものの30秒で延々馬鹿一徹モードに移行するネタだった。この差異自体が、面白くなってしまう。そのうえ、フレンチのネタは一通りボケた後に一応センターマイクのところに戻ってきて一言くらいは素の野田クリスタルとして「わかってきた」とかコメントするけど、吊り革のネタではそんなのも一切ない。ただずっと馬鹿な動きをしてるだけ。全然センターマイクに戻ってこない。勝負ネタの前にもう一つ別のネタを持ってくることで、フォーマットに則ったネタを一つ挟むことで、このネタが如何に無鉄砲で馬鹿なのかということをわかりやすくしてたんだよねー。で、その一本目もこの流れなら奇抜で面白く見えて、なんとか最終決戦食い込めるだろって判断でフレンチになったんだろうし。
2本目の吊り革は俺的には本当に最高だった、まず1本目とは打って代わって即コント漫才に入るそのスピードに笑ったし、めっちゃ動いちゃっても電車の揺れに耐え続けてるところで「まさかこいつ喋らないままいくつもりか」と思って笑ったし、ここからは漫才じゃなくてジャズじゃんってなったし、そのあとは延々野田クリスタルの動きと村上の合いの手のジャズに笑っていた。センターマイクに戻ることなく、延々動きでボケ続ける執念に感嘆しながら。
まあ、僕から見えたのはそんな景色だったんですけど、これは別に何も、「こういう風に面白い。この面白さがわからんかね」とかそういう話ではなく、「たぶんマヂカルラブリーはこういうふうな勝負に出た」という、それだけです。その結果、マヂカルラブリーがラッキーで勝てた、というだけです。面白いか面白くないかは人それぞれだし、結果が全てでもありません。何より、あの吊り革のネタを正月に色んなところで披露してちゃんとウケるかどうか心配です。俺だってチャンネル変えるかもしれない。あの流れの中では面白かったとしか俺自身思ってないんだから。
この騒動見かけて一番嫌だったのは、M-1はこれから動きで笑いを取る奴が勝つみたいな感じになっちゃってしゃべくりは勝てなくなるみたいな言い分で、そうじゃねえんだよ、その場その場で一番の正解を探した奴が勝つんだよってことで、勝つことが将来的ななにかを約束されるわけでもないし、そこに審査員とか客とかがいる以上、勝ちは常に揺蕩うし、すべては藪の中から出てきた藪蛇なので、すべてを糧にしてみんなもっと笑けようぜ、と思うのであった。俺は来年はまたしゃべくり漫才が勝つと思うし、M-1はトレンドを作るのではなく、トレンドを探す大会なのだろうと思っている。
以上です。