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テレビ番組「ベスコングルメ」のコンセプトが完璧すぎる

みなさんは日曜日の夕方18時半サザエさんの裏で放送されている「ベスコングルメ」という番組をご存知だろうか。私は寡聞にして知らなかった。

伊集院光がゲスト出演するらしいとの情報が伊集院光ファンなので耳に入ってきて、どういう番組なのか全く知らないままTVerで視聴したのだが伊集院光回の面白さも去ることながら、番組企画のコンセプトデザインそれ自体が何より素晴らしくてちょっと感動してしまったので毎週日曜18時30分の録画設定を完了しながら書き記したいと思う。

ベスコングルメとは、ベストコンディショングルメの略らしい。グルメを楽しむベストコンディションを整えたうえで美味い飯を堪能する、つまりどういうことかというと目的地となる美味い店のそこそこ遠いところをスタート地点として、目的地まで歩く。東京の街並みをトークをしながら歩いてゲストの思い出の場所への寄り道も交えつつ只管に歩いて、目的地まで歩ききったらうまい飯を食う。ただそれだけのバラエティ番組。

出演者は毎回3名でMC1人とゲストが2人。僕が見た回はオードリー春日がMCでゲストが伊集院光と青森を拠点に活動する女性マルチタレント?王林(ごめんあんま詳しくない人です)、この3人で今は亡き伊集院光の師匠・六代目三遊亭円楽の愛したステーキ屋を目指して東京の下町をただ歩く。ただそれだけ。ちょっと調べてみたらMCはオードリー春日と麒麟川島の隔週らしい(ラヴィットやっててこんなレギュラーも持ってんの!?)。

ありがちなトークとグルメの番組なんだが、とにかくまずこの「歩く」というコンセプトが素晴らしい。いわゆる街ブラみたいな、飲食店が固まってる場所を通行人やお店の人と話しながら食べ歩きするのではなく、いくつかの街を横断縦断しながらひとつの目的地に向かってただ只管に歩く。この街を越えながら歩く感じが、歩くの好きな俺にはそれだけで愛おしい。東京は出張がてらでお邪魔するくらいにしか知らないのだが、そもそも今住んでる大阪だって大学に入学してから住み始めた街なので最初はよく知らなかった。地方の田舎者には伝わるんかなと思うんですが、修学旅行とか単なる旅行とか移住したての時の都会って、駅がワープゾーンに見えるんです。A地点からB地点に移動しようと思ったら、A地点の最寄駅から電車に乗って、B地点の最寄駅まで乗り継いでB地点に向かうのが普通みたいな感じになっちゃうんですが、そこに住むと色々わかってくる。これ全然電車賃払わなくても歩けるなーみたいな、むしろ電車乗り継ぐより歩いた方が早いじゃん、みたいな。歩いて移動することを覚えることで、街は良い意味で狭くなっていく。どこかへ行くのが億劫じゃなくなっていくという意味では広くなっていくとも言える。そして、歩いていると電車に乗っていたら知る由もなかった「ここにこんなとこあったんだ」が店でも神社仏閣でも何でも増えていって奥行きが増していく。それが街で生活するということなんだろう。僕は歩くのが好きなので、東京の街を歩きまくるこの番組コンセプトがすごく好きになってしまった。

そしてそこで展開されるトーク、これも3人という少人数編成でしかも歩きながらのトークなので、まず一言で言えばうるさくない。ふつうのトーク番組みたいなフリにうまく答えてそれを別のやつが広げてまた別のやつがうまく落としてみたいな雛壇がたくさんいるガツガツした感じとか、かっこいいこと言ってアテンションを集めて次にパスを出してまたかっこいいこと言ってみたいな対談系の洒落臭い感じとか、そういうのが全然感じられない。何せみんな一生懸命歩きながらだから、普段通りの感じで、いつも思ってるからいつでも話せることとか、いつでも思い出せるからいつでも話せることとか、テレビ番組なんだから簡単に「素朴」と言い切るのはテレビに騙されすぎだけど、学生時代の登下校の時に友達と交わす会話みたいな、そういうテンションで繰り広げられるトークはどうにも愛らしい。

そして何より、そうやって5kmとか歩いて辿り着いた目的地のお店で食べる美味い飯。それを食べる出演者、その飯が美味そうに見えないわけがない。だってそこそこに歩いて疲れて目的地に辿り着いてやっとありつく美味い飯、美味そうに見えないわけがない。しかもこの番組、アサヒビールの一社提供で、とりあえずみんな生ビールを飲む。美味そうに見えないわけがない。2015年くらいだったと思うんだけど、ビールのCMで「グビグビ」って喉越しの音を使うのが禁止だか自主規制だかになったと記憶していて、それはたしか断酒を頑張りたいアルコール依存症の人たちからすると刺激的すぎる音なので配慮しましょうみたいな流れだったと思うんだが、それ以降いかに「それなりに頑張って、それなりに達成感があって、心地いい疲れの中で飲むビールは最高だぜ」という感じをCMという短い尺の中で物語にするかという試行錯誤の歴史は加速してる感じがする。これは缶コーヒーのCMがいかに労働と労働の合間での心の清涼剤として見せるために労働者へのリスペクトを表現するかを模索してきた歴史に似ている。そう考えた時に、人生を振り返りながら自分が生きた街を歩き、語り、歩き歩きまた語り、歩いて疲れた自分の身体と自分の半生を労うように食う美味い飯と生ビール、見ていて気持ち良くならないわけがないだろう。

食傷気味のコンテンツであるグルメを出演者に歩かせることで美味そうに食わせて素直に「俺も食べてえな」と思わせて、テレビ用にコーティングされたタレントのキャラクターを歩きながら喋らせることで引っ剥がして素直に聴けるようにして、街を歩いて半生を見せることで視聴者である俺自身の半生や俺が過去に生きた街までも思い出させる、すごいバランスで全てが噛み合う企画コンセプトの思惑通りの良い気持ちにさせられてしまう番組、それがベスコングルメ。毎週録画はしたとして、これTVer課金したら過去放送分も見れるのかなぁ、後で調べよう。

唸ったよ、面白すぎて俺は唸った。東京以外を歩く回もあるのかな、見たい。見たすぎる。歩きたくなるし、美味いものを食べたくなるし、ビールを飲みたくなる、最高の番組。応援するぜ。

以上です。