ピクサーの新作が公開されるってことで、二夜連続で『モンスターズインク』と『モンスターズユニバーシティ』がテレビでやっていた。それで、俺はモンスターズユニバーシティは一回観たきりだったけど『モンスターズインク』はかなり好きで何度も繰り返し観ててほとんどアンパンマン観てる間だけおとなしい赤ちゃんみたいな存在こと僕こと俺なんですけど、今回は発表順ではなく作品内時系列順に『モンスターズユニバーシティ』を観た後に録画しておいた『モンスターズインク』を観るという順番を取った。そうすると、あの口ばっか調子いいだけにも見えるマイクをサリーは何故あんなに信頼しているのかというのもしっくり来たし、初めて見た時はすごく活き活きしているように見えたあのコンビが、大学生の頃に比べたらやっぱりちょっとつまんねえ大人になってる部分もあるんだなっていうのも見えて、それを踏まえてのブーとの冒険なんだっていうことがよりリアリティを持って感じられてよかった。みなさんにも是非オススメしたい観賞順序です。
それで、『モンスターズインク』の魅力というのは挙げればキリがないのだけど、今回見て「やっぱ俺、この映画好きだ」って思うのは、終盤の対決シーンなんだよね。ネタバレになるけど、あの尋常じゃないスケールのドア倉庫に3人が辿り着いたところで俺は「ああ、この映画最高だ」って泣きそうになる。っていうかちょっと泣く。
で、なんで俺あそこであんな泣けるんだと思って考えたんだけど、サリーとマイクも狭い世界で生きてたんだなってところにある気がするんですよね。ブーはブーで、別に親に閉じ込められてたわけでもなんでもなく楽しくやってたんだろうけど、やっぱりあのモンスターズインクとクローゼットでつながっていたあの部屋、あの部屋が世界の全てだったみたいな解釈でいいと思うんだ。それは日常と言ってもいいと思うんだけど、そこから全然違うモンスターの世界に飛び出してサリーとマイクと楽しくやりながらっていうのはやっぱブーにとってアドベンチャーなんだと思うんだけど、サリーとマイクにとってそれは日常にブーという異物が入り込んできたに過ぎなくて最初の時点ではまったくアドベンチャーではないんだよね。そりゃあ一人でクローゼットに怯えながら眠るだけの小部屋にいたブーに比べれば、サリーもマイクも大人で優秀な社員でガールフレンドもいたりそれなりに自由ではあったのだけれども、ある意味ではブーと同じように2人も狭い世界で生きてたんだなって思うわけです。
それが、会社の価値観を否定してブーを守ろうって2人で決意して、決意したところで出てくるのがあのだだっ広い大きさのドア倉庫なんだよね。サリーとマイクも驚いていたように、観てるこっちだって「こんなにドアがあって、こんなことになってるのか!」って興奮するわけですけど、それを今まで知ろうとしなかったサリーとマイクと僕たちを省みるじゃないけど、「知らなかった」「想像もつかなかった」ことを恥ずかしく思うじゃないけど、やっぱその自分の小ささみたいなのに圧倒されるんだよね。よくよく考えたらあんなもんどこからどう見たってどこでもドアじゃないですか。じゃあどこにでも行けるはずなのに、そんなことは考えもせずに、誰かに決められて目の前にやって来たドアにちょっと入って子供を驚かせて帰ってくるっていう流れ作業を繰り返すばかりで、それに慣れきってしまって、「この仕組があればどこだっていけるんじゃね?」っていう発想を忘れてしまっている。だからこそあの世界中につながってる無数のドアに「なんじゃこりゃ」ってなるわけ。見てるこっちはモンスター世界っていうなんでもアリの壮大な世界に馴染んでるつもりでいたけれども、実は同時に人間社会と大差ないモンスター社会の規範みたいなものも刷り込まれてしまっていて、せっかくなんでもアリな世界観なのにせせこましく所帯じみた毎日を送るモンスター社員たちの感覚にも疑問を持たなくなってたわけ。
それをぶっ壊すあのドア倉庫の圧倒的なスケール。あそこからが本当の意味での3人のアドベンチャーなんだ。ブーにとってもサリーとマイクにとっても、今までの狭い世界を飛び出して、世界の大きさに呆然としながら興奮しながら自分の目的を果たすためにどこにだって行ける。縦横無尽に世界を行き来できる。本来、そういうもんなんだって気づくアドベンチャーが始まる瞬間があそこなんだよ。
もちろん、それぞれ帰る場所はそれぞれにあって、日常があって生活に寄り添って、そういう風にして生きていくしか仕方ないんだけれども、そういう日常っていう場所はすごい狭いんだぞ、そのほうが生きやすいから狭いところでこじんまりやっといてるだけで、それは全然すべてなんかじゃないんだっていうのを自覚しながら生きないとどうしたってつまらなくなってしまう。そしてサリーとマイクもどこかそれを忘れて、つまらない大人になっていた。つまらない大人になって忘れていたものをブーとのアドベンチャーで取り戻す。その忘れていたものの象徴があのドア倉庫なんだよ。だから、俺は、あそこやっぱちょっと泣けるんだよな。以上です。