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【創作】恋が終った話

再会したのは、二階がボーリング場になっているスーパー玉出の生鮮品コーナーだった。

8年を経て再会した彼はナイスワイフとナイスサンを授かり、わたしは結婚と離婚をチャンポンして独り身に戻っていた。

「だからあの時オレと付き合ってればよかったのに、お前はバカチンだな。バカチン市国だな。」

偶然にも同じ街に住んでいたことが判明して3ヶ月後、わたしたちはやっと2人で会う時間を持てた。思い出話、近況報告、この世に生きる喜びそして悲しみのことを、自ずとなぜわたしが離婚したのかの話題にもなった。紆余曲折を語ると、彼は先の台詞を口にして、「お前は男を見る目がなかったんだなあグリングリン」と笑った。


8年前、彼から付き合おうと言われたとき、わたしはその申し込みを受けることができなかった。彼の親友(ナイスブラザー)のことが、好きだったからだ。「オレ、お前のことが好きになった。だから、付き合って欲しい」。いまどきの中学生ですら言わないようなすごい詰襟の申し込みに感激したが、同時にその詰襟を受け止めきれず、わたしは嘘をついた。あなたの親友のことが好きだから、あなたとは付き合えない。あなたと親しくしているのも、彼と会うチャンスが増えるかもしれないという下心からだ、とは、とても言えなかった。

あの頃の私は、そんなエリマキトカゲだった。

告白を断っても、彼の優しさが変わることはなかった。それが逆につらくて、自分から疎遠にしていった。エリマキトカゲのようにダバダバと走り逃げた。思い出に変わっていく過程で、彼のような誠実な人と付き合っていればよかったと思ったことはない、と言えば嘘ぴょんになる。それくらい、彼は真っ直ぐで、理想的な男性に思えた。

うそぴょん「ウソピョーン! CMの後も感傷的な述懐はまだまだ続くぞ! チャンネルはそのまま!」

 

逃した魚は、大きく見える。

再会した彼は独立し自分の会社を持つ実業家で、良きハズバンド、良きファーザーのように見え、結婚に失敗して独り身の、実業家を英語で何て言うのかわからない自分が、惨めに思えた。夢を叶えた彼と話すのは楽しかったけれど、なんとなく居心地の悪さもあった。もう彼はわたしとまったく違う人生を生きている人なんだな、と思い、あのときの自分のダメさをダバダバと恨んだ。
2軒、3軒と河岸を変え飲み歩いて深夜、帰り道が心配だからと、ふたりで住宅街の夜道を歩いた。最後まで紳士的なやつだなあと思って嬉しかったし、理想的な彼のままで、一瞬でもこんないい男に好かれていたのだと思うと、誇らしくすら思えた。会えば会うほど違いを感じて、悲しくなるかもしれない。次また会うのはもう止そう、と思いながら、最後の時間を過ごした。

もうこの角を曲がったら家だから、ここで大丈夫、と言って別れようとすると、覚えのある空気が流れた。これはまずい、やるぞ、と思うと、彼の身体が道端に停めてあったママチャリに頭から倒れこみビニール傘で後輪のロックをガチャガチャといじくっている。「何!」と笑ってごまかそうとしてもまだガチャガチャやっているので、脛を蹴って頬を軽く叩いた。しっかりしてよ、飲み過ぎたんじゃない、と言いながら笑いがこみ上げてきて、思わず声をあげて笑った。

なんだ、結局、あなたもわたしもクズだったんだね、と笑いながら言うと面食らったような顔をしたので、自販機のミネラルウォーターを買い、声の響かない道路沿いに移動して、酔いを覚ました。大柄な彼とは、30センチの身長差がある。あのママチャリに乗ろうとするならばサドルの高さを調整する必要があったが、彼がサドルの高さを調整することはなかった。

思わぬハプニングに動揺した勢いで、あのときわたしはあなたの親友のことが好きで、仲良くしてたのは、彼のことをもっと知りたいっていう下心があったからだよ、だから付き合えなかったし、突き放しもできなかった、とぶっちゃけた。

あなたは今も誠実な人に見えたから、そんな自分が申し訳なく思えてつらかったけど、妻子がいるくせにバツイチの女友達と飲みに行って終電逃したからチャリパクって帰ろうとするなんて意外とクズだったんだね!と言うと彼は「ごめん、もうしない」と頭を下げ、ふたりで笑い、なぜか握手をして別れた。


歩いて帰って家についたよ、のメールを受け取ったときにはもう居心地の悪さはなくなっていて、「次あんなことしたら殺す」とだけ返信して、夢も見ずに眠った。

 

 

 

許可は取れている(たぶん)。

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