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愛してる

愛してるって最近言わなくなったのは本当にあなたを愛し始めたからなんて歌が昔にあった。当時の僕はなるほどそういうもんかと思っていたが今の僕はそうは思わなくなった。だからずっと真似してた頭もじゃもじゃサングラスファッションも最近になってやめた。と、ボケた後にもういい加減に本家の方もやめてんじゃねえのかと思って公式サイトを確認したが向こうはまだやめてなかった。何よりである。志村けんもタカandトシに「欧米か!」は絶対にやめずにやり続けろよとアドバイスしていた。やめずに続けるのは大事なことなのだ。昔はそんなことなかったはずなのだがいつからか僕は軽々しく愛してると口にするようになった。息を吐くように愛してると言っている。それは極めて軽薄な愛してるなのかもしれない。その軽薄さに耐えられなかったからこそ本当にあなたを愛し始めた頭もじゃもじゃグラサンおじさん(以下てつや)も愛してるって最近言わなくなったのだろう。特にそれを否定するつもりもない。でもな、てつや、愛するってのは重ければ重いほどいいんだろうか。てつや、俺は最近考えるんだ。かつて羊水に包まれて上も下もない穏やかな毎日を過ごしていた俺は、十か月と少ししたある日を境に足のある方がいつだって下になる日々を送ることになった。それからしばらくして俺は気付く。俺はどこまでも俺なのではなく、俺から薄皮一枚隔てた向こう側は俺ではなく世界だった。そのことに気付いた瞬間、まさに世界と接していた俺の目は乾いた。涙が出たのはそのせいだ。てつや、俺は思うんだ。きっとこの時、俺は世界を愛していたのだと。それから俺がまばたきをする度に世界はその姿形を変えた。雲は流れて波は寄せて返した。まばたきした次の瞬間の世界のことなんて俺には予想もつかなかったし目の前に広がるすべてが俺の思い通りになることもなかった。俺はそんな世界をきっと愛していたのだ。てつや、やがて俺は世界の一部にあなたを見つけた。てつや、お前のことじゃない、それは俺のあなただ。僕でもない世界でもないただ一人のあなただ。あなたはきっと、僕にとって僕でも世界でもなかった。それでもあなたは、まばたきの次の瞬間にどんな表情をしているのかわからなかったし決して俺の思い通りになることもなかった。そういうところは少し、あなたはきっと世界に似ていた。しかしそれが俺にはどうにも耐え難いことで、初めて俺はその時に愛してると言ったんだ。僕は世界を愛するようにあなたを愛することができなかった。だから僕は呪うように絞り出すように愛してると言ったんだ。てつや、本名、中本哲也。芸名、テツ。赤いジャージで踊る方のてつや。お前らM-1に出てくる奴じゃないよ。談志お前にそう言ったよな。てつや、俺もあれからなんでだろうを繰り返した。あなたを愛してると口にしてしまったあの時から、俺は世界すらも愛せなくなって、一寸先の虚空に向かってなんでだろうを投げ込み続けた。答えは返ってこなかった。闇の向こうに僕の望んだままのあなたを望み、愛してると繰り返した。それだけが望みを手に入れる唯一の手段に思えた。それでも手に入らないことを嘆いた。僕はそれを愛してると呼んだ。なんでだろうなんでだろうなんでだなんでだろうなんでだなんでだろうなんでだなんでだろうなんでだろうなんでだろうなんでだなんでだなんでだろうみなさんご一緒になんでだろうなんでだろうなんでだなんでだろうなんでだろうなんでだなんでだろうなんでだなんでだろう。お前らM-1に出てくる奴じゃないよ。てつや、俺はお前みたいに楽しく踊れなかった。俺が世界を初めて知って涙したあの時のように、無邪気になんでだろうと歌えなくなっていた。僕が目を瞑る一瞬の隙にあなたが世界が変わってしまうことがおそろしくて、僕はいつの間にか瞼を閉じて夢を見ることをやめて常に目をこらしていれば当然目は乾き、絶えず溢れるその涙の量が愛なんだと信じて疑わなかった。そしてそれ以外のことはなんでだろうと全てを疑った。雲が流れて形を変えるのなんでだろう潮が満ちたり引いたりするのなんでだろう。そしてそのすべてが、あなたを含むこの世界が俺の思うままにならないのなんでだろう。てつや、俺が愛してるって言うのはかつてはそういうことだったんだ。なんでだろうなんでだろうなんでだなんでだろうなんでだなんでだろうなんでだなんでだろうなんでだろうなんでだろうなんでだなんでだなんでだろうみなさんご一緒になんでだろうなんでだろうなんでだなんでだろうなんでだろうなんでだなんでだろうなんでだなんでだろう。てつや、あれからしばらくが経って、俺もやっと踊れるようになってきた。ガチガチのパフォーマンスで9位だったハライチのようなあの頃が嘘みたいだ。将来の夢にM-1優勝って書いた岩井の卒業文集と同様に、俺の愛してるもやっぱり呪いだったのかもしれないな。今は違うよ。変わり続ける世界を、あなたを、素直になんでだろうと思えるんだ。極めて軽薄に軽快に何の重みもなく愛してるって言えるんだ。だから言わせてくれよ、てつや。愛してる。