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私が小学生の頃に実践した効率的な漢字書き取り法

 字がものすごく汚い。いわゆるミミズの這ったような字を地でいく感じで実に字が汚く、いみじくも「じ」の多い一文になったことを心より恥じる。財前五郎

 字が汚いと自分の書いた字を見るのが嫌になるので書くこと自体が嫌いになる。なので僕は手書きで字を書くのが本当に嫌いだ。タイプライターに端を発する今もこうしてカタカタ叩いているような入力装置がこの世に存在しなかったら、僕が人生の中で書いた言葉の量は大袈裟な話じゃなく今の1万分の1くらいだったんじゃないかなと思う。

 字を書くのが嫌いだったのは昔からのことだったようで、思い返せば漢字の書き取りドリルみたいなのが小学生の時にあったと思うんだけど、あれがもう苦痛で苦痛で仕方なかった。手は疲れるし時間は無くなるしでどうにも憎たらしかった。

 そこで当時の僕は最も効率的にラクをするためにどうしてやろうかと考えた結果、漢字を分解することで単純作業の単純度を更に引き上げることにしたのだ。

 例えば田んぼの田を書くとする。いや、これ今文字だからわざわざ「田んぼの田」って書かなくても「田」って書けばわかるのに何かつい言っちゃうんだよね。田んぼの田を10個書き取りなさいと大きなマスが並んでいるとした時、僕はまず口を10個書いた。そしてその後に十を10個書いた。

 ここからの数字は例えになるのだけど、例えば田を10個書くのに10秒かかるとする。こうなると田を1個書くのにかかる時間は1秒だ。しかしこれを口と十に分解しよう。不思議なもんでこうして分けると口を10個書くのに4秒、十を10個書くのに4秒、これをあわせて10個の田を都合8秒で書けるようになる。タイムが2秒縮まっている。人間、自分に与えられた役割が単純化すればするほど無我の境地に近づき作業スピードは向上するのだ。

 かくして、当時小学1年生だったズイショさん考案による漢字書き取りの産業革命は爆誕したのであったのだった。

 漢字書き取りの産業革命によって人々の生活はより豊かになった(ゲームできる時間が増えた)。夏休みの漢字書き取りドリルも「今日はこのドリル一冊内にあるゴンベン(言)を全部片づけるのが目標だな」とかそういう順番で取り組んでいた。そうと決めたらその日はもう延々とゴンベンだけをひたすら書き続けるのである。いったい自分が何をしているのか途中からはまるでわけがわからなくなるが時間効率でいえばこれが一番早いので機械になった気持ちで書き続けるのだ。みなさん、私はゲシュタルト崩壊の遥か向こう側を知っている。

 僕はこれをずっと漢字書き取りのあるあるネタだとすら思っていたのだが、嫁さんに話してみたところ「本当にあなたって人は」から始まるひどい冷罵 を浴びせられるところとなった。そんなことをやる人は今まで会ったことがないとのことである。本当にそうなのだろうか。この程度のこと、俺以外にいくらでも思いつく奴がいていいはずだ。思いついてもやらない奴はきっと「でもこんなやり方じゃ字がうまくならない」と考えた結果だと思うので立派だと思う。それでも俺以外に思いついて実践してる奴ってなんぼでもいそうなものなのだが。そんなにみんな字がうまくなりたいという向上心を持った立派な子どもだったのだろうか。

 なお、大人になってからしばらくして、漫画家の森田まさのり先生が「自分はネームを元にコマ割りが出来上がった段階で全てのコマをバラバラに切り抜いて、そうして一切れ一切れを描き込み仕上げていく」というようなことをどこかに書いていて、「お、俺の漢字の書き取りと一緒だ」と思ったが全然違う。