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「文章を書く」について考えたこと

毎年ドラフトの季節になると「今年こそは俺にも声が掛かると思ったんやけど」みたいなギャグを言うおっさんは日本中そこかしこにいるんですけど、日本でも数少ないそのギャグをノーベル文学賞の時にも言えちゃうおじさん(本人は迷惑だそうです)が文章を書くコツを問われてすごい投げやりな回答をかましてたのをキッカケに色んな人が「文章を書く」ということについてあーだこーだ言ってて俺もなんか書きたいなってなりました。


でも最初は人のを読む分には楽しいけど俺はいいかなと思っていたところがあって、というのも一時期結構文章を書くとはみたいな話を好んでやってて、だから「もういいかな」と思うところがあったんだけど、よくよく考えると前にそういう話をしていた動機というか目的が「俺が俺のやり方を把握してないので俺のやり方を少しでも把握するため」だったので、なんかこう指を突っ込まないでゲロを吐けるみたいな特技があるんですけど自分でもどうやってるのかよくわからないからちょっと意識しながら吐いてみてなるほど腹筋で横隔膜を持ち上げるようなイメージか、みたいなそういう確認の意味でやってたんですよね。別に誰かにゲロの吐き方を説くつもりで書いてたわけじゃないから、もうちょっとそっちに寄せて書いてもいいのかなって気がしたんですね。誰もゲロの吐き方なんて教えてくれて要らないですけどね。

ただこの話題気をつけなくちゃならないのは、先に挙げた人らも三者三様に触れているとおり、「書き方」の話を「書いて」するわけだから、自己言及的にもなるわけでそこで気恥ずかしいからってあまりに自分のことを棚上げして語っちゃうと「自分はすごくうまく書けてる前提」って思われちゃう可能性もあったりそこらへん大変ナイーブな話題ではありますよね。そのくせ、僕なんかどうしても「俺おもしれえだろ」感が強いじゃないですか、普通に書いときゃ「味がある」とかそういう範疇に収まるのかもしれませんけど明らかに過剰で逸脱してるじゃないですか、完全にこの人はこれを面白いと思って言ってるんだなって前提が見てとれるじゃないですか。むしろそういうの一切なく何の他意もなしに当たり前のように突然指使わないでゲロ吐く話に脱線してたらそれ単にヤバいやつじゃないですか。「こいつはヤバいやつなのかな?それともこれが面白いと思ってやってるただの糞つまんねえやつなのかな?」っていうことを都度都度読む側に吟味して頂いて、懐の深い優しい人たちに後者だと判断頂いて「ああ、こいつはヤバいやつではなく単に糞つまんないやつなんだな」と判断頂いて、なんとかインターネット空間に生存させて頂いている僕こと俺じゃないですか。そういう事情があるので、「こう書いたらうまくいくんだぜ」感は全力で消しにかかるしかないですよね、そこを誤ると「お前なんなの」って話になっちゃいますから僕個人の損得勘定で考えるにそこは絶対消さなきゃダメなんですよ。そのために何ができるかっていうとそれはもう完全にお客さんに背を向けるってことですよね。お前らにどうのじゃなくて、勝手にやってるんで気にしないでくださいって態度ですよね。だから別に何を言われたって別にお前に言ってないし独り言だしって言い切れる強い心ですよね。心の底からそれを言い切れるよう、全力で背を向けようという姿勢が大事なわけです。なんやったら完全にお客さんに尻を向けたうえで尻がキュッとしてる、お尻にえくぼができてるくらいの心を開いてない感じでいきたいですよね。お尻にえくぼで思い出した全然関係ないんですけど、お尻にえくぼは割と一般的な言い回しですけどそれとは別にお尻のまばたきもありますから。普段生きてると気付かないんですけど括約筋が自分の意思とは無関係にキュッって力入って締まる瞬間がありまして、それがお尻のまばたきですね。普段は意識することないですけど僕はこのお尻のまばたきという現象に痔の手術をした際、散々に煮え湯を飲まされました。お尻のまばたきは、ありまぁす。舌のデフォルト位置ってどこだっけと同じ話で、一度こう言われると貴方はしばらくお尻のまばたきが気になって仕方ないはずです。まぁがんばってください。それくらいの背の向け方で、もう「誰も最後まで読むな」くらいの気持ちで、どちらかというと一般的なところでの「文章を書く」ということだったりとか「うまい文章」とかそこらへんの話をしていければなと思うんですけど、ハッキリ言ってまだそこらへんの話は始まってないですからね。今からやっとこさ始まるとこですから。

人は誰もたった一本の時間の矢に跨り人間の口は一つだけ一秒間に一つのことしか喋れない口にした言葉と思考がイコールで結ばれる瞬間はついぞ死ぬまで一秒たりとも訪れない、僕は多分にそういう風に考えてる節があるのですがそれはやっぱり文章についても言えることで、実際に体験して思うこととそれを書くこと述べることの間には恐ろしい距離があるよなと思う。自分の思ったことと書いたことが既に出鱈目に遠いうえに、それを貴方がまた僕が書いたのとは全然別の瞬間に勝手に読み勝手に何かを思うというのだから僕と貴方の距離はそれはもうとんでもないことだなとも思う。そのとんでもない距離があるという事実を誠実に受け止め、かといってそれに絶望してるでもない人の書く文章は好きだなと思うことが多い。セクシーだなと思う。ありのままに今起こったことを話すぜというのは漫画表現の話であって、実際のところそんなことは誰にもできやしないのだ。僕は今、椅子に座っている。椅子に座り目の前のデスクトップパソコンにこの文章を打ち込んでいる。これは僕が実際に今、椅子に座っていることを意味しない。実際の僕は今、カバに跨ってシェイカーを振っている。ラムとライムとガム・シロップを混ぜ合わせたシェイカーをシャカシャカとしながらSiriに話しかけているのだ。さて、このあと出来上がるカクテルの名前はなんでしょうか? 正解は文末で。僕は椅子に座っていても座っていなくても「僕は椅子に座っている」と言うことが可能で、同様にカバに跨っていても跨っていなくても「僕はカバに跨っている」と言うことが可能で、つまり何かを書くということは全く事実とは関係のないことなのだ、しかしそれはあらゆる無限な選択肢の中から私自身が選び取った選択であることには間違いなくそういう意味では確かに私についての何かを表していることに間違いはないのかもしれないけれども、少なくとも私が書いたことが事実とも私の考えていることとも別のことである可能性は十二分にありうる。そしてそのようなことは何も文章に限った話ではなく、対面で貴方と誰かが喋っているときにも、実はこれと全く同じことが起こっているのである。という、危機? 危機じゃないんだけど。だって今までもずっとそうだったんだからどってこたないんですけど、まぁなんか現状そういう感じらしいみたいなことをどれくらい肌で感じているかっていうのはその人が書いたものを読んだり喋ってるのを見てたりすると、なんとなくわかったりはしますよね。そしてこの感覚っていうのは生きてる間に変わったりするもんなのかっていうのは、すいません僕は身体がひとつしかないのでちょっと断言はできないんですけど、これは「もって生まれたもん」ではない気がするんすよね。やっぱこう、色んな人のブログ読んでるとそこらへんの感覚は日によって話題によって変わってるよなとか、ある日を境に劇的に変わったよなってことはざらに見かけるのでそういう話ではねえんじゃねえかなと思う。ここまで書いて僕が気付いたのは、じゃあ仮に、そこらへんの感覚が現状あまり無い人がどういう悩みを持つだろう、どういう悩み方をするだろうということを考えるに、「思ったように書けないな」ってことだと思うんですよ。だってその人は思ったことをそのまま書けると思い込んでるわけなんだから。そして「思ったように書けて、思ったように伝わる文章」をうまい文章だと思ってんじゃねえかな、と今唐突にカバの上で思って豆電球が頭の上に浮かびました。比喩じゃなくてマジで。で、その豆電球をカバの虫歯のところにはめ込んだら、光りました。不思議ですね。

例えば僕が仮に「思ったように書けて、思ったように伝わる文章を書くためにはどうすればいいですか?」って質問をされたとしたら「そんなことできる奴がいたらそりゃ持って生まれた才能だ、糞して寝ろ」って話にしかならないわけで、思ったように書けないのが当たり前で、思ったように伝わらないのが当たり前で、それは大前提として俺の思ったことも書きたかったことも伝わらなくていいから読まれて何かしらが受け止められりゃいいやっていう話であれば、もう少しやりようというか工夫というか闘い方は出てくるんじゃねえかなと思う。振り返ってみれば思ったままに受け取られる才能っていうのはどう考えたって「生まれもったもん」で、確かに笑顔でありがとうと言ってそのままに受け取られるような俺なんかには逆立ちしても勝てっこねえやつはたまに見かけた気がする。そういう奴が羨ましいと思うことはあったが、そのうちに羨ましがるのは諦めた。だってできっこねえもん、「もっと素直に感謝の意をそのままに受け止めてもらうにはどういう言い方をすればいいか」って考えてる時点で敗北してるじゃないですか。そこを意識しちゃった時点で五体満足と四肢断裂くらいの差が発生していて完敗以外の何者でもないじゃないですか。そこはもうどうしようもないですわ、お尻のまばたきを止めるにはどうすればいいですかって言われたら「まぁがんばってください」としか言いようないですよ。そりゃあいます。世の中にはお尻のまばたきを意識することもなく無意識に完全にコントロールできて誰にでも分け隔てなくかわいい肛門を見せてやれる天性の才能の持ち主っていうのがいるかもしれないですけど、そこで勝負しようと思ったらどうしたってどうしようもないっすもん。凡人はお尻のまばたきどうしてもしちゃいますから。じゃあもうね、お尻はまばたきしちゃうもんとして、そのうえでどうやるかですよね。「とりあえず感謝の意があるんだなって相手に見えりゃいいや、他のことはまた追々考えよう」っていうすごく低い目標設定のところからどこまで頑張れるかってことなんじゃねーかなーと思って、そう考えるとid:fktackさんの「スタートラインに立つ覚悟ありますか?」って問いかけなんじゃないかって話も、id:fujiponさんの「つべこべ言わずとりあえず書けや」みたいな話も、id:aniram-czechさんの「文章力は諦めてお前本体が面白くなれ」みたいな話も、なるほど全部つながるなーと勝手に思って、得心が、スラムダンクダイキリです。以上です。