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『姑獲鳥の夏』と同じトリックでDVD延滞しました

タイトルの時点で既にネタバレのエッセンスを内包してるので少なくとも今後『姑獲鳥の夏』を楽しく読書する予定がある人は帰ってください。それじゃなくたって以下に綴られるのはただ単に頭の悪い人がDVD返すの忘れて延滞料取られた話以上でも以下でもございませぬ。

 

とある日曜日の朝、僕は朝食を平らげるや否やアズスーンアズでその先週に借りて既に鑑賞し終えておりました三谷幸喜大河『新撰組!』の9巻と10巻を返却しまして続く11巻と12巻を借りてきました。『新撰組!』は全13巻、遂にここまで来たかという感慨も両の口の端から涎とともに零れ落ちます。思えばこの1ヶ月ちょっとの間、毎週毎週ハムスターのように返しに行っては借りてきて返しに行っては借りてきてを繰り返し、まさにクライマックスに向かわんとしている俺こと僕です。その日も早速11巻12巻を借りて帰ってくるや否やアズスーンアズで嫁と二人で大鑑賞大会を始めまして、12巻をわずか1話を残すとなったところで時刻は早くも16時半(改めて書いてるとDVD観るのって時間を無駄にしすぎてる感すごすぎて泣けてくるな)、実はこの日の今後の予定は既に決まっておりました。我が家から二駅ほど離れたところに安くて美味いと評判の焼肉屋さんがありまして、ここは17時開店なのですが予約は不可で開店するや否やアズスーンアズで満席、そんな魔法のレストランが羽音も耳障りにたかってきそうな素晴らしいお店に開店直後を狙ってお邪魔する算段で僕たち二人は朝飯を食べたっきり昼食を食べる気もサラサラ起こさぬままに延々笑ってもいいかないいともでお馴染みの笑っているんだと言われれば笑っているように見えなくもない香取くんの微妙な芝居を観倒して、晩餐の機会を待ち受けていたわけであります。帰ってきたら12巻の最後の1話を見届けて、そしたらいよいよ最終巻だねなどと言いながら僕ら二人は意気揚々と焼肉屋を目指すわけですが結論から言うと、なんとその日は定休日。それを僕らが知るのに最も適していない場所、一番最悪な場所、それはまさにシャッターが閉まった店の前にて僕らはその事実に相対しました。途方に暮れました。晩飯の予定が17時と決まっていれば昼飯を抜くことについて一定の道理があるとは思うのですが、こうなってしまってはなんらかのちゃちゃっと作れる麺類を昼時にお腹に入れなかった僕らは完全なる堕天使です。昼飯を食わなかったのは完全なるミステイクです。それから僕らは焼肉屋がお休みなのであれば他に何か違うお店でディナーを食おうと近所の散策を始めるわけですが、もう完全にあの店でディナーを食うんだぜって気分になっちゃってたから、身体がもうその店のお肉を受け容れる体勢を整えちゃってたから、なかなか「じゃあここで食べよう」なんて店は決まらないわけです。っていうか昼飯も食ってないから単純にハラペコで機嫌もあんまり良くないわけです。当初食べる予定でいたお肉屋さんがダメになった時点で心情的には激おこぷんぷん丸なわけです。こんな状況でろくに満足できそうな外食屋さんを見つけることなんて出来るわけがないのです。かくして僕らはしばらくウロウロと足を動かしながら逡巡した結果、ケンタッキーフライドチキンをテイクアウトして、家でチンタラと飯を食うのであればそのまま『新撰組!』を最後まで見てしまおうという結論になったのでした。

さて、ケンタッキーを無事に拵え最寄り駅についた僕と嫁。すったもんだはありましたものの、依然お腹はペコペコのままではございますが、今後の予定が寸分の狂いもなくガチガチに定まってる以上は何の気苦労もございません。手元には夕食なるチキンがありまする。まずはこれを頬張りながら12巻の最終話を見届けます。その後、僕は11巻と12巻を携えてレンタル屋に出向き、その後家に戻れば借りて帰ってきた最終13巻を見届けるのみです。ああ、なんと素晴らしい休日だろうか、やることが決まっている休日はかくも穏やかなものであろうか、思いつつ僕はチキンしか買っていないことに気付き、我が家へと向かう道中こんな言葉を口にしました「ああ、もしかしたら最終巻借りてくるついでに、サラダとか買ってこようかな」と。そういえばそうだ、あのコール、コールなんだっけなんかケンタッキーで売ってるスキーモーグルの技名みたいなサラダあるじゃん。あれ全然好きじゃないから買ってないんだけどコンビニか何かでサラダ買うのはありかもな、と思って僕はそんなことを言ったんですけど。家に着くや否や、嫁は言うたわけです。「じゃあサラダ何がいいかな」と。僕がそれを聞いて思うのはただ一つだけで、「え、今? 今俺がこれから買いに行くの?」というそれだけなんですけど、彼女からすると「だってサラダと一緒にチキン食べたほうがおいしいじゃん」というそれだけの話なので、こっちとしても「まぁ確かにそうだね。脂っこいチキンだけを食べるよりかはサラダと食べたほうがおいしいね」しか言えないわけです。なので重い腰を上げて、一度脱いでしまった靴下を履き直して、僕はサラダを買いに出向くわけなんです、ならばついでにその道中にあるレンタル屋にですね、最終13巻も一緒に借りて帰ってるわけです。その後は何てこともないなごやかな週末の夜ですよね、チキン食いながらサラダ食いながらとりあえず12巻の最終話を観て、その後13巻も全部最後まで見届けて、感動も一塩に気持ちよくその後の一週間を迎え撃ったわけだったんですけど。

翌週日曜、期限がその日に迫っておりましたのでDVDを返しに行って、返しに行ったものの既に最後まで見届けたので次に借りるべきものもなく意気揚々と手ぶらで帰宅しまして、更にその後の一週間に臨むべく床についたわけですけど。それからまた少し経ったロングブレスダイエットをしながら過ごしてる火曜の夜だったんですけど「まだ三日もあるんだから頑張るんだぜ」の顔で肺を空っぽにする僕のところに何だか見慣れない番号からの着信があったわけですね。出てみるとレンタル屋なわけです。「すいませーん、13巻は返ってきてるんですけど、11巻と12巻がまだ返ってないみたいなんですけどー」とか言うてて、えーっ思って確認したらまぁ結論から言うと確かにその通り返してなかった。その時11巻と12巻は俺の部屋にあった。これがこの話のあらましほとんどすべてです。

 

いいですかみなさん、僕がここでしたいのは「いやーうっかりしちゃったぜこんなうっかりものの俺を愛してくれよベイベー」とかそういうことではないんですよ。これは認知の歪みの問題です。私は如何にして借りていたDVD11巻と12巻の存在を忘れていたのかという、私が話したいのはそこのところなのです。

私がハムスターのように返しては借り、返しては借りを繰り返して長編DVDを見果せるということは何も今に始まった話ではないです。僕はこれまでの人生、ずっとそうしてきました。まず借りる、借りたものを観る、そして観終えたものを返し、また借りる。僕は僕の先祖様がそうして畑を耕したように、これまでの人生において延々同じ手順を繰り返し踏んで、レンタル屋と同じ釜の飯を食ってきたのです(それは嘘やろ)。しかし今回については、ここまで読み通した皆様においてはご明察の通り、私はサラダないと脂っこいチキン食ってられへんやろ問題に従い、11巻と12巻を返さぬままに最終13巻を借りるというフローを踏んでいる。一方で私は「返してから借りる」という手順を自我が芽生えた頃から徹底して行っていたがために、「13巻を借りた」という事実を以ってして「11巻と12巻は既に返しているものである」という脳処理を行い、果てには自分の視界の端に11巻と12巻の未返却DVDが転がっているにも関わらず、それらを認識せぬまま13巻のみを手に取り、レンタル屋へと返却に向かった次第なのであります。

いや、こうやってふざけて言ってるけど、俺はめちゃめちゃビビったよ。最初本当にわけがわからなかったよ。心の底から「13巻を返している以上、なぜ11巻と12巻を返していないはずがあるのだ」と思ったよ。その後部屋で11巻と12巻を見つけた時はもう本当にどうしようもなくビビったね。途方にくれたよ。

考えてみると、俺って普段生活してる中で「同じ動作をいつも同じようにしているのだから、そこにイレギュラーなミスはない」っていう確認の仕方をめちゃめちゃ多用してる気がするんだよね。よく考えるとDVDの借り方・返し方もこれに該当してたんだなと思う。例えばさ、これはギャグ半分マジ半分なんだけど、あのー普通に生きてて家とか出た時にさ「あれ、俺ちゃんと家の鍵かけたっけ?」ってめちゃめちゃ不安になることあるじゃないですか。俺はめちゃめちゃあるんだけど。家から遠ざかれば遠ざかるほど気になっちゃって、結局家に戻って「あーよかった、やっぱ鍵ちゃんとかかってるんじゃねぇか」みたいになることってあるじゃないですか、アレが僕イヤで色々考えた末にたどり着いた結論が、鍵をかけて鍵穴から鍵を抜いて鍵をポケットにしまったら、鍵穴に向かってダンディ坂野の「ゲッツ!」をするんですよ。鍵をかけた記憶は脳に残らないけれども、鍵穴に「ゲッツ!」をした記憶はどういうわけか脳に残るんですよ。なので、時間が経っても自分が鍵ちゃんとかけたかを疑いようがない、っていう便利理論があって、これの応用みたいなものを色々生活に取り入れてて、「返してから借りる」を徹底しておけば返し忘れがあるはずがないって考えるのもたぶんその一貫だったんじゃないかと思うわけですけれども、それが今回このザマだったわけですよ。これは裏返すとね、鍵をかけてないドアに俺にゲッツをするよう誘導してしまえば、俺は見せ掛けの密室トリックの共犯者になってしまうんじゃないかと思って、背中にすっごい冷たい汗がつたったわけですよ。人は見たいものしか見ない、そういう自分の信用ならなさをね、今回の件で、僕は確信して、警鐘鳴らさにゃと思って、長々とこの文章を書き連ねたのでございます。

なお、延滞料金はもちろんそんな致命傷ってほどでもないですけど確実に恥ずかしい間抜けな金額になっておりますので自分の口から明言するのは控えます。あー、損した。超悔しい。めちゃめちゃ超悔しい。以上です。