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『マレフィセント』感想文

ベイマックスヤバイベイマックスヤバイってみんな九官鳥みたいに騒いでますけど、そんなにヤバイの?って疑問があって。いや、ケチをつけるわけじゃなくてディズニーピクサーは毎回割とヤバイよ?それらに比べてまた一段とヤバイの?いつもどおりヤバいの?どっちなの?ヤバイのは今に始まったことじゃないからね、そのこれまでのヤバさを踏まえてなお一層ヤバいの?そもそもディズニーピクサーがどれくらいヤバいかっていうとね、って話をしたいんだけど流石にベイマックス観てからやれよって話なわけででも映画館行くのめんどくせーなーしかしディズニーはすげーなーと考えあぐねてたらスッカリ油断してたんですけど実写だと結構ディズニーやらかすってこと忘れてました。というわけでこのエントリは、TSUTAYAでなんとなく借りたらなんとなく全然おもしろくなかった『マレフィセント』の感想文です。

感想を一言で言うと「なんとなく全然おもしろくなかった」んですけど、何がどうおもしろくなかったのか非常に説明しにくいんですよね。もちろんおもしろかったという感想の人もいるだろうしそれはそれでいいんですけど、一方で「おもしろくなかった」と感じる人は俺以外にもたくさんいるだろうと確信に近い感じで思えて、かつその「おもしろくなかった」という感想は許容されるべき確かな理由を伴った「おもしろくなさ」のように思えて、作品の好き嫌いは人それぞれでいいと思うんですけど、「なるほどそういう風に解釈する人もいるかもね」という人それぞれではなく、「なるほど、確かにそういった傾向がこの作品にはあったし、その傾向を以ておもしろくないという人は一定層いると思われるね、その傾向がそんなに気になるかどうかは人それぞれだけどね」と言えるような確かなおもしろくなかった理由があるように感じられて、つまりなんかこう物語における典型的な地雷を元気よく踏み抜いてたようなところが『マレフィセント』には確かにあったように僕には思われ、その地雷の実態をなんとか明らかにしてやりたいんですけどどうアプローチすればいいものやらみたいなそんな感じです。

なので、その輪郭を少しでもハッキリとさせるために具体的になんか俺が気になったところを思いついた順番に書いていきたいと思います。つまりこのエントリは、僕の力不足により終始ネタバレに躊躇いがありませんので未見の方はそのつもりで読み進めて頂ければ幸いでございます。

とりあえず、いつ始まってるのかよくわからないんですね。いや、そりゃ始まってる時に始まって始まって以降はずっと始まってるんですけど、いつ始まってるのかよくわからないんですよ。開始5分とか10分くらいで幼少期パートが終わってアンジェリナージョリーになるんですけど、そこが始まった地点かというとそんな感じでもなくて、その後なんかバトルシーンみたいなやつがあって、15分とか20分くらいで翼をもがれて悪堕ちするんですけどそこで始まるのかっていうとそんな感じでもなくて、30分とか経ったところでオーロラ姫に呪いをかけるのかな、そこで始まったかっていうとそんな感じでもなくて。つまり、この映画何の話なのかよくわかんないんですよ。マレフィセントの話なのはわかるんですけど、マレフィセントの何の話なのか全然よくわからない。結論から言うとこの映画のストーリー、後半は眠れる森の美女とは全然違う展開で全然違う終わり方の全然違う話なわけですけど、そのことすら結構後半までよくわからんのですよ。「もうひとつの物語」ってコピーで売られてて、まぁコピーはコピーなのでどうでもいいっちゃいいんですけど、このコピーを観ても冒頭の30分を観ても「同じストーリーを違う視点から書いた話」なのか「同じフォーマットなだけで全然違う話」なのかがよくわからないんですよ。どっちともとれるので、どういう風に見ればいいのかがよくわからなくて、それで僕はどうにもいつまで経っても物語がいくら進んでもなかなか始まったような気がしなかったんですね。

あと、なんか従者の元カラスの男がいるんですけど、これが開始20分とかで仲間になるのかな。マレフィセントに命を救われて、お供しますみたいな感じになって、それから付き人みたいな感じで行動を共にするんですけど、「御意」みたいな忠実なしもべキャラなんですけど、開始45分くらいかな。オーロラ姫がそこそこ成長した段階なんで作中で少なくとも10年以上の月日が流れてるんですけど、カラスが魔法で犬に変えられるシーンがあるんですけど、カラスがそこで文句言うんですよマレフィセントに。カラスからすると犬は天敵なもんで「犬に変えるなんてあんまりだひどい」みたいな文句を言うんですけど、文句言うの自体はいいんだけど今言う?今言うかっていう。そういうの言うキャラなら最初の段階で言っておけよと思ったんですよね、そりゃ10年くらい共にしてるんで関係性が変容したって見方もできんこたないですけど、そこそんなリアリティいるか?と思って。そういう「文句とかも言うような距離感の従者」なら最初に出てきた時点でそうわかるようにしとけって話で、そもそも最初人間の男性の姿を与えられて命を救われるわけだからその時点で例えば「もっと身長高くしてくれてもよかったのに」みたいな、そういう文句言わせられるじゃん。そういうの挟まないで何で登場から20分くらいして唐突に文句言い出すの?っていうのが不思議で。ちなみに全体を通して見ればマレフィセントとオーロラ姫の関係性について言及したりするので、「文句とかも言うような距離感の従者」である方がやりやすい立ち位置ではあります。なら最初っからそういうキャラにしとけよって話で。

成長したオーロラ姫とマレフィセントが出会うまでにちょっとオーロラ姫の幼少の頃を描くのに尺を使ってて、内容としては「オーロラ姫を育てる3人の妖精が頼りなさすぎてマレフィセントが世話を焼いてしまう」ってシーンなんですけど、いわゆる原風景としてよく見かける悪いモンが悪いことするために世話を焼いてるうちに情が移ってしまうみたいな『きつねのおきゃくさま』的な下りなんですけど、妖精3人がただの頭おかしい奴らすぎて普通にマレフィセントが世話してるみたいなってるんですよ。妖精3人に任せてると危なっかしいからヤキモキしちゃうとかそんな感じじゃなくて、頭おかしい妖精3人はほぼほぼ放置しかしてないからそりゃマレフィセントが世話するしかないよねみたいな風に見えちゃって、仕方なくやってる間になんだか情が湧いてきた的なニュアンスが全然ないんですよ。

あとはそうね、「翼あるんかーい!」ってなりませんでした?いや、いいんですけど、「あるんかーい!」ってなりませんでした? 僕はなんかそれをすごい思って、いや翼あるんやったら呪いとかそんなんええから翼取り返したらよかったやん、お前の魔力あったらできるやん、わざわざ赤ん坊に呪いかける必要なかったやんって思いませんでした? 僕はめちゃめちゃ思いました。これよくある難癖だと思うじゃないですか? 微妙に違うんですよ。翼が取り返せるものだったとしても、赤子に呪いをかける必然性っていうのは存在可能です。それはマレフィセントが自分を裏切って翼を奪った王に執着している場合です。そんな感じありました? なんか、王に執着してるっていうよりかは単に人間全体に大して擦れてるようなそんな印象に僕には見えたんですけど、それであれば翼を奪い返してから人間にさんざん復讐してやればよかったんじゃないのと思ってしまって。もしどうしてもあそこで翼を取り返すような展開にしたかったのであれば、もっとマレフィセントがこじらせてる原因を「王」という一人の人間に寄せて、もっと王に執着して取り乱して、王のせいで心が引き裂かれてるようなキャラクターであれば、オーロラ姫との交流でその執着を乗り越えて本当の意味で裏切られたトラウマを乗り越えて自分のプライドを取り返すみたいな意味合いで翼を取り返したんなら全然納得できたと思うんですけど、なんかそんな感じでもなかったでしょ。単に人間全般が嫌になって厭世的なアンニュイな感じになってるようなマレフィセントだったので、そんなマレフィセントの心持がオーロラ姫との交流によって上向きになりましたってだけの話なのであれば、いっそオーロラ姫とキスしたことがキッカケで新しい翼が生えたほうがマシだったんじゃねえかなと思うんですね。取り戻すというよりかは生えるべきだったように僕には感じられた。

と、まーこうして並べてみると僕がどうにも入り込めなかったのは「ここはこういうことなんでよろしくね」って感じでなんか観てるこっちのお客さん側の方に処理を委ねるシーンがやたら多く感じられたのが原因なのかなって感じがします。お客さんに意図通り「そうとしか思えない」ように見せるのがいわゆる演出ってやつだと思いますが(もちろんお客さんに委ねる演出が存在するのは当たり前だけどめんどくさいのでこういう言い方しますが)、なんか徹頭徹尾そこんところが甘いように思われた。たぶん翼の下りとかも「いや、まさにそういう話ですよ。王から翼を取り戻す話です。ずっとそういう話してたじゃないですか。何言ってるんですか」って思うお客さんもいると思うんですけどね、僕が「ああ、そういう話なんですね」と了解したのはまさに王が武装してラスボスとして対峙してきたあたりですから。もちろんそういうルートに入る可能性はあるとは思ったけど、絶対にそのルートだと言えるような運びではなかった。「これは既存のディズニーの価値観を打破する、女性二人の心の交流が男性性を打破する物語ですよ」っていう文脈を共有できていれば当然の運びに見えるのかもしれませんが、僕はその文脈を共有する機会が映画観てる最中になかったと思っている。「こういう話だ!見ろ!バーン!」って迫ってくる感じが全然なくて、「こういうふうに解釈して欲しいのでそういうふうに解釈してください、よろしくお願いします」っていう客に甘えた感じがあったんすよねー。なので、誤解されるとイヤなんですけど、ストーリー自体は全く問題ないんですよ、面白いはずなんですよ、そういうフェミっぽい内容なのが気に食わないとかそう思われるのは心外です、そういうストーリーで一向に構わないんですけど、いいじゃないですか王子様ではなくマレフィセントのキスでオーロラ姫が目を覚ます眠り姫、面白いと思います、その話は面白いと思うんすけど「こういう話面白くない?」「いいね面白いね」で色々止まってて「じゃあどういう風に見せればお客さんはそういう風に受け取ってエキサイティングしてくれるかな」ってところがすげえ雑だったなーってことなんですよね。そこでなんか、「うーん、なーんか面白くねえな」と思ってしまった。のであった。

あとすげえ気になったのが、作中の時間の流れと年齢設定がよくわかんなかった。これは俺が冒頭見逃しただけで普通に明記されてたかもしれないからそれだったらごめんって感じなんだけど。マレフィセントが若者とキスしたのが16歳で、その後月日は流れ若者は人間界の野望のトリコになりみたいな感じだったんですけど、アンジー初登場の戦争始まった時点があれアンジー何歳なのかがよくわからん。最初、20歳前後かな?と思ったけど、それを40歳のアンジーがやるのやっぱ無理あるなーと思って、そしたら翼を奪いに来る若者が結構年齢いってるわけ。あ、するってえとやっぱ20歳前後とかそういうことではないのかな、アンジーはアンジーだから仕方ないとして、もう片方のこいつの外見年齢を正とした方が確実かな、ってことはこの時点のマレフィセントはアラサーから30半ばくらいかなー、この翼奪いに来たおっさん結構年齢いってるけどたぶん二人は同い年くらいだもんなーと思って、そう思って観てたんですけど、その後翼奪った若者が王になるでしょ。「あ、これ王役が自然に見えるように照準合わせて役者を配置してやがる!」ってことに気付いて、つまりこの王っぽい高齢になった時が一番映える年齢の役者を配置してるので、翼奪った段階の外見年齢がそのキャラの年齢だと考えるのはおかしいって話になってくるんですね、じゃあ結局あの翼奪われたの何歳で、物語終了時点で何歳なんだよ!わかんねぇよ!オーロラ姫が生まれるまでにかかった期間もわかんねぇよ! こういうストーリーであればこそ結構そこらへん重要じゃないですか?マレフィセント20歳の時に裏切られて36歳で幸せになる話なのか、マレフィセント16歳でキスをするも20歳で振られて35歳の時に「いやー今まですまんかった」って戻ってきた男に翼もがれて60歳までこじらせ続ける話なのか、それによって結構印象変わってこないですか? そこんとこ、僕はすげえ気になるんですけどよくわからなかった。ちゃんと観てたらわかったのかな、誰か知ってる人いたら教えてください。マジで。

まーそんな感じで。どちらかと言えば俺が細かいところ気にする方の自覚はありますよ。そしてそんな細かいこと気にしないしストーリーすっと受け入れられたから普通に面白かったって人もたくさんいると思います。けど、だからって「お前そんな細かいことグチャグチャ言って難癖つけんなよ」って話だとは全く思わないんですよね。なんか、普段のお喋りでも文章でも映像でも物語でも何でもですけど、「ちゃんとせなあかん部分」というのが意識させられてすごく勉強になったはなったんで、観てよかったっちゃよかったのかなー。いやー、どうかなー。以上です。