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パン屋のおじさんに泳がされた話

先日妻との逢瀬の出先にてこの近所に美味しいと専ら評判の行列のできるパン屋があると言うのでとあらば折角だし立ち寄ろうと相成り向かってみれば噂に違わぬ行列が店の外まで連なり思わずうへえと声を漏らすも覚悟の上と最後尾に付ける。我々の前には10人ほどが店内からあふれるように並んでおりその奥の二重扉の間のスペースに4人ほど、更にその先の店内にはどれだけの人がいるものやらここからはどうにも窺い知れぬ。その日は最高気温三十度にのぼるカンカン照り、遅々として進まぬなかを汗を拭いつ、じつと待つ。やがて店外の最前列に我々は近づき前に残るはいよいよ家族連れの四人のみ。ふと後ろを見ればお昼時が近づき我々が店についた時の倍ほどはあろうかという長さの列を為している。なるほどわざわざ行列整理の人間を一人置くだけのことはある。なんと繁盛なパン屋であろうか。と、その時店内から両手にどっさりパンの詰まった袋を持った二人組が出てきて、これでまたわずかながら列が進む。二重扉の間に二人分のスペースが出来て前にいた家族連れの母と娘が滑りこむ。父親が扉を手で押さえ開きっ放しにして談笑を進めていると行列整理のおじさんが飛んできて言った。「空調ありますのでドア開けないようにお願いしま~す」斯くして扉は閉じられた。

で、それからもうしばらくして、俺と嫁さんも入ったんだけど、よくよく考えたら二重扉の間なんて空調利いてるわけねえの、むしろ外より暑いの、がっかりだよふざけんなよそりゃよくよく考えたら空調回すようなスペースじゃねえよ、わっかんねえけど二重扉の片一方開けっ放しにしてたら店内の空調が余計に電力食うことになるかもみたいな理屈もあるのかもしんねえわっかんねえけど、だから別に整理のおじさん言ってたこと別に間違ってなかったのかもしれない、だけど期待させんなよ、夢見させるようなこと言うなよ、何が湘北を強くしてやるだ、完全に俺はあそこまでいけば涼しいんだこの汗を止めることができるんだと希望を胸にこの数刻を過ごしていたんだ、馬鹿ですか俺は馬鹿ですか都合のいい女ですか?惨めなら笑いなさいよ、あっはっはっはっはっは。あの整理のおじさんはきっと今日もこの炎天下の中、扉を開け放しにする人を見つけるたびに「空調ありますのでドア開けないようにお願いしま~す」と言うのだ、きっと今も言っているのだ、それを聞いた列の人たち、誰一人俺みたいに期待しないって言えますか?絶対いると思うんだよ、俺は戦争を無くしたい、そのためにできることをやってきたい、誤解とガッカリを減らすこともその一歩だと思うんだ、だから、まるで空調利いてるみたいな、そんな言い方はよしとくれよ。おじさん炎天下のなかお仕事お疲れ様です。だけどそんな、あのドアの向こうが涼しいみたいな言い方、そんなこと言わないでくれよ。頼むよ。パンはうまかったです。以上です。

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