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みんなでサンタクロースをやっている2

クリスマスイブの夕方に息子がサンタクロースに「ポケモングッズを今年もよろしく」と手紙をしたため、その夜に慌てて23時まで開いてるカードショップにポケモンカードを俺が買い求めて行った話はすでに書いた通りである。

その後日談を今日は書こうかと思う。

12月25日の朝にサンタクロースからのプレゼントとしてポケモンカードのスターターデッキ2つを手にした小学2年生の息子はそれはもう大喜びでさっそく俺とカードバトルを繰り広げたわけだが、サンタクロースのくれた2つのデッキの相性が悪すぎる。

この段落はポケモン及びポケモンカードを知らない人にはわけがわからない話だろうですっ飛ばしてもらっても構わないのだが、サンタクロースがくれたミライドンデッキとコライドンデッキで戦うとミライドンデッキにいるポケモンはコライドンデッキのポケモンに悉く弱点を突かれて割とどうしようもないのである。厳密に言うと、俺がミライドンデッキを使った時は工夫に工夫を重ねて辛勝することは可能なのだが息子がミライドンデッキを使って俺に勝つことはまあハッキリ言ってほとんど不可能だ。どうしようもないと言って差し支えがないほどに絶望的に相性が悪い。ましてや小学2年生の少年とあらゆるゲームを一通り遊んでいる39歳のおじさんである。これはまずいと思い、俺は息子に提案した。「サンタさんが2つデッキをプレゼントしてくれたなら、お父さんからのプレゼントとしてもう一つくらい買ってやるよ。一緒におもちゃ屋さん行こうぜ」、と。前の日の夜に俺が一人で行ったカードショップである。そこでジュナイパーデッキを買った。コライドンデッキに強い草タイプで構成されたスターターデッキである。そうすると今度はこのジュナイパーデッキが強い。ミライドンやコライドンは進化させるまでもなく最初から強いので初心者向けではあるのだが、コンボが決まればジュナイパーデッキが強すぎる。中級者向けのスターターデッキとも言えるし、ポケカの基礎がわかってないと持て余すデッキであるとも言える。俺がジュナイパーデッキを使えばミライドンデッキもコライドンデッキも楽勝で撃破できた。そもそも年季が違うのだ、こちとら齢39で初代ポケモンも初代ポケカも遊んでいるしマジック・ザ・ギャザリングもある程度嗜んでいるのである。今の環境は知らないが緑速攻が猛威を振るっていた頃の話だ。そして俺はあらゆるゲームで息子に容赦なく本気でやる教育方針を取っている。なぜなら、人間を強くするのは勝った時の喜びではなく負けた時の悔しさであると信じて疑っていないからだ。勝利の喜びは自分の研鑽への歓喜であり、敗北の悔しさと反芻は勝利へのプロセスである。

これが12月25日までの話。

12月26日、俺は一人再びカードショップに赴いた。これ、もう1デッキ要るなと思ったからである。というか、いつまでもスターターデッキで遊び続けてても仕方ないしデッキ構築という概念を身につけないことにはこの類のゲームの面白さを知るスタートラインにも立てない。どうせやるなら何かを学んで別の何かに応用できるところまで理解してほしい。ボードゲームビデオゲームとお笑いと演劇や漫画や映画やドラマや文学と倫理学とネット炎上と動物とグルメとスポーツ観戦と政治と歴史と将棋と人との対話コミュニケーションをこよなく愛する俺の唯一の教育理念である。

ただルールを学んで終わりではなく新しいものに触れた時に「ああ、つまりコレってアレと同じやつね」と有機的に紐付けながら理解や知識や思想を深めていく。狂人的に一つのことにのめり込めない凡人が世の中を生き抜く術は、世界の事象はすべて繋がっていると受け止めたうえで広く浅くでもいいから様々な事象に興味を持ってそれを自分のおもちゃ箱に詰め込んでそれを元に自分の物語を紡いでいくことである。それが自分が凡人であることをすっかり受け入れた私の結論だ。

そのような信念のもと、デッキ構築バトルもやるならちゃんとやりなさいと思った私はカードショップを再び訪れたわけである。

初めにカードショップを訪れたのはクリスマスイブの閉店間際22時に大慌てで一人で、二度目に訪れたのは翌日クリスマスの昼下がりに息子と二人で、そして三度目に訪れたのが12月26日の日も沈んだ18時頃ほかの用事を済ませたついでに一人私はカードショップに駆け込んだ。

それまでの二度の来店は時間も時間だったので客もまばらであったが金曜日の18時は全然様相が違う。対戦スペースで実際にカードバトルを繰り広げるプレイヤーたちがひしめき合っている。そうなると俺の行動パターンも自ずと変わってくる。人によってはもう一つそそくさとスターターデッキを買ってすぐに退店するのかもしれないが、あらゆる浅いスキルで世の中を生き抜こうと人生を歩んできた俺はそうはいかない。対戦スペースをうろついて回り、ポケモンカードでバトルをしている最中の推定小学生高学年から中学一年生くらいの男の子とその子とバトルをしているおっさんに目をつけた。そして声をかける。

「すいません、サンタクロースが息子にポケモンカードをプレゼントしてきたので勉強したい初心者なんですが。観戦させてもらってもよろしいですか?」

何にも特化していない凡人の自覚があるおじさんは、こういう薄っすい擬態をすることに何の衒いもないのだ。俺は今から「全然わかんないけど息子のために勉強するお父さん」をやる!

「いいですよ!全然見ていって下さい!」とおっさんは快諾してくれた。一緒にプレイしていた男の子も「大丈夫ですよ」と節目がちに了承してくれた。節目がちなのは別に知らない大人に声をかけられて困っているとかではなくシンプルに今のカードバトルの盤面に夢中で俺に一切の興味がない感じで面白かった。

観戦しながらぽつりぽつり話しかけてみる。

「お二人は、えーと、親子とかですか?」

「いえ、違います違います!」

「あ、じゃあご兄弟とかですか?」

「いえ、このお店で知り合って最近仲良くやったんですよ!」

「そうなんですね〜」

色々な世界があるんだなーと新鮮な気持ちで楽しむ僕。

しかし俺は実際のところは右も左も分からないズブの素人お父さんではない。あくまで擬態しているわけではない。僕が観戦したバトルはおっさんが勝利して終わった。それについて僕は社交辞令にコメントする。初対面のよくわからないお父さんが他人に名前を聞くわけにもいかないのでとりあえず便宜的におっさんの方を「お兄さん」と呼んで男の子の方を「「お兄ちゃん」と呼ぶことに決めた。

「そうですね、素人なんでよくわかんないですけど、お兄さんの方のデッキはハメ手に近いというか、勝ち確パターンを最短で作ろうとする強気の構成で、対してお兄ちゃんの方は二色構成で引きによって厳しい盤面になることも覚悟した上でコンボがうまく決まれば強い夢があるデッキって感じでいいですねー、今回はお兄さんが勝ってたけど引き次第ではどっちに転んでもおかしくない良い勝負でしたねー」

明らかにズブの素人ではない謎のお父さんのコメントにまんざらではない感じで照れくさそうな二人。

まだ時間ある?とお兄さんがお兄ちゃんに確認しつつ、そこから更にもう一戦。この時点でお兄さんがもう「こいつやってるな」か「こいつ素質あるな」かわからないけど俺に対してワシが色々教えてやるわいモードになってきてバトルをしながら都度今自分が出したカードの効果の説明をしてくれる。スターターデッキで数プレイしかしてない俺にとっては「なるほどそういうカードもあるのか、それは強い!であれば、こういう使い方も想定できるな!」など大変勉強になるのだが、お兄ちゃんがチラチラ腕時計を見ている。きっと門限があるのだ。おそらく19時だ。たぶん19時を過ぎて家に帰るとお母さんに怒られてポケモンカードやめるか門限18時にするかどっちにするんだいと迫られるのだ。

「お兄さん、お兄さん!たぶんお兄ちゃんの方も時間があるので!もしお兄さんが良ければ、あとで色々教えてもらいたいんですが今はバトルに集中して!」

促すとお兄さんもバトルに集中してアッという間にお兄さんが圧勝した。このお兄さんのデッキ、たぶん対策しないと絶対勝てないガチのハメデッキだなーと思いつつ眺めているとお兄ちゃんの方はそそくさと片付けて帰っていった。車には気をつけて急いで帰るんだぞ、お母さんに怒られないためにも。

 

バトルが終わってやっとお兄さんとゆっくり話せる感じになった。まずは自分の自己紹介から、僕は39歳で8歳の一人息子がいてポケモンSVのビデオゲームがデビューでポケモンカードをプレゼントしたら大喜びしている、もともとボードゲームを嗜んでいるがデッキ構築タイプのゲームは初体験なので大はしゃぎなのでこれから付き合っていくのが大変そうです。僕の方はほんな感じです。差し支えなければなんですがご年齢は?ポケモンの歴史をどれくらい知ってる前提でこの後の会話を進めたい故の質問だった。そしてお兄さんの年齢は19歳だった。最初の方おっさんとか言っててごめんな、マジごめん。

「じゃあお父さんですかとか聞いたのめっちゃ失礼でしたね、ほんますいません!」と謝るとお兄さんは「いいですよ、老け顔とはよく言われるんでね!」と朗らかだ。言われ慣れてるならよかった〜とホッと胸を撫で下ろす僕。

そこからポケカ談議が始まって、僕もビデオゲームの方のポケモンの基礎知識はあるはずですと前置きしたうえでポケカの細かいルール(このカードがこのタイミングで使われた場合どういう処理になりますか?など微に入り細を穿つ質問をして)を教わり、そのうえ今家にあるのがこのデッキでひとつ買い足すとしたら何が良いですかねなどと相談して、かなりやりこんでそうなのでスターターデッキの構成なんか知らんがなと思われないか恐る恐る聞いていたが正真正銘のお兄さん(おっさんでは全くなかった)は嫌な顔ひとつせずに色々アドバイスをしてくれて、僕が買うデッキを一緒に選ぶのに付き合ってくれて最後には「ここらへん僕余ってるんでどうぞ」と40枚くらいのカードを僕に渡してくれた。受け取らないよう固辞するのも変な流れではあるがさすがに一回り以上も年齢が下の若者からタダでは受け取れないと考えた僕は「ラーメンでも奢りたいですけど、おっさんとラーメン食ったって仕方ないですかねぇ?」と言い、お兄さんはそれに「いいですよ!カードプレイヤー人口増えるのが一番嬉しいですから!」と笑顔で答え、食い下がる僕の「せめてなんか自販機でコーヒーでも」にも「あ、僕も時間そろそろなんで!全然本当気にしないで下さい!だいたいこの時間は僕いるんで、また!」と荷物をまとめて去って行った。

お兄さんにも門限があるのかもしれない。バイトがあるのかもしれない。そこらへん19歳が一番わからないのでおじさんは考えることをやめた。

 

ともあれ、追加デッキとお兄さんがくれた40枚のカードによって今の我が家ではスターターデッキを崩して自身のオリジナルデッキを構築して僕と息子の二人で対戦を繰り返す日々が始まっている。それでもカード所有枚数は限られてるのでデッキを作ってはバラし次のデッキを構想するような有様なので、以前に作ったデッキをいつでも再現できるよう管理するスプレッドシートを俺が組んで、8歳の息子がフィルタとか昇順降順の概念を獲得している最中だ。

 

ここに書いた顛末は息子にもそのまま話していて、息子は父親に教えを説いてカードを分けてくれたおっさんみたいな風貌の19歳のことを「優しいお兄さん」と呼んで大変感謝している。優しいお兄さんは俺に対しても「僕、デッキいくつかあるんでそれ貸すんで一戦します?」と言ってくれたほど優しいお兄さんだったので、本当に優しいお兄さんなのだ。

俺はその場では「今日は予定もあるのでバトルはまた今度」みたいな返しをしてお茶を濁してしまったが、もしあの優しいお兄さんともう一度出会えるならば、息子を思う存分ポケモンカード沼に引き込んでほしいと思う。

 

もう一度言おう。みんなでサンタクロースをやっている。俺が最初おっさんかなと思っていた優しいお兄さんのおかげで俺の息子はより一層ポケモンカードという世界にワクワクしているし、俺もまた優しいお兄さんのおかげでそんな息子のワクワクをサポートできるように勉強させてもらった。サンタクロースは架空の存在ではない。みんながみんなで少しずつサンタクロースをやっていて、そしてサンタクロースはこの世に存在する。

それはそうとしてあの優しいお兄さんのデッキどうやったら今のカードでデッキ組んだら倒せるかなと俺は考えている。サンタクロースは夢を与える存在であり垨りの対象でもあるのだ。

以上です。