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30歳、15年ぶりに地べたに落ちた唐揚げ3秒ルールで食ったけどハムカツはさすがに無理だった

あのー、僕、共働き夫婦二人暮らしなんですけど、掃除機かける洗濯物回す干す畳むアイロンかける皿洗いゴミをまとめる出すトイレ掃除風呂掃除あと細かい色々掃除関連やります。たまにじゃなくて、これらについては嫁が全くやらずに済むようにくらいを目指してやります。なんでかっていうと、料理が全くダメだから。ダメな理由はなんぼでも挙げれるけど、それはそのまま「その、大変な行為を、相手に押し付けてるんだな」と言われたら言い訳のしようもない。だからその分ってな調子で、家事はほか頑張るんだけど料理だけは本当全くやらないんですけど。

それで、ある日、起きたら嫁さんがいなくて、その日俺は休みだったんだけど、そう言えば嫁さんなんか用事で今日は一日家を空けるって言ってたなと思って、とりあえず起きて身だしなみ整えてテレビ見てパソコン触ったりしてたけど、ま~メシが出てこないのね。そうなんだよ、いつもは黙っててもそのうち何かしらメシが出てくるシステムなんだけど今日は違うの。泣こうが喚こうが俺がメシを作らない限りメシは永遠に出てこないシステムに変更されてんの。

ここでポイントなのは俺が普段「料理はやってくれてるんだからいいよいいよ」って自分でやってる家事、それらをどれだけやろうが意味ないのね。俺が皿を今から5億枚洗ってもご飯がひとりでに炊けることは決してないの。すごくない? この世はすべて等価交換とかめっちゃ嘘じゃん。そりゃ俺は家事それなりにしてるよ、でもそれは家事手伝ってお駄賃100円もらって、その100円をアンパンマンポップコーンに投入してポップコーン作ってもらって食べてるだけにすぎなかったんだ。そのアンパンマンポップコーンが声割れすぎで怖すぎ、死ねない腐乱した戸田恵子か、みたいになって撤去された瞬間たちまちに、俺はいくら100円玉を抱えていようと、飢え死にするより仕方ない存在だったんだと痛感したよね。べつに普段からしてたけど嫁さんへの感謝を再確認して、まぁ嫁さんをアンパンマンポップコーンになぞらえて感謝する奴ってどうなのとかあると思うんですけど、何よりいくら感謝してもメシ出てこないんで一旦日頃の感謝は置いといて、メシを作ることにしたんですよ。

で、そばがあったからざるそば食おうと思って茹でるんですけど、麺つゆが無いのよ。嫁さんはいつも自分で作るから。でも自分じゃそんなもの作ったことないからクックパッドでググッて作るんだけどま~うまくないわけ。みりんと醤油を煮てかつおぶしでだしをとるだけだろ、なんでうまくならねえんだよ。自分で作ったらうまいとか言うの俺あれ完全に嘘だと思うんだよね。

うまいものはうまい、まずいものはまずい、それでよかろう!

それでいいと思うんですけど、それで言うと自分で作った麺つゆ超うまくないの。全然よくないよって感じになるの。自分で自分に全然納得いかないわけですよ。で、これも俺の料理苦手というか料理向いてない傾向の一つだと思うんですけど、そうなると今度、じゃあ昼はソーメン食おうってなっちゃうのね。すぐリベンジしたいの。我慢ならないから。初日カレーがおいしくできなくて以降30日延々カレー作り続けるやつは30日目のカレーがどんだけうまかろうと「料理下手」って称号を与えていいと思うんですけど、つまりは思うままの結果が得られないっていうことへのストレス耐性が料理には必要だと思うんですよ、その時はその時って結果を受け入れる精神が料理するには必要だと思うんですけど。で、僕はその意味でも料理ダメなんですけど結局昼に作りなおした麺つゆも全然おいしくならなくて、これ僕があと5つ6つ若かったら家にある1リットルとかの醤油とみりんが全部なくなるまで延々やってたかもしれないよね、作っては捨てて作っては捨てて、それで「何やってんだ」って嫁さんに言われても「俺に麺つゆ作らせるのが悪い」とか逆ギレしてたんじゃないかと思うんですけど、さすがに堪えてやっぱダメだ~と思いながらいたんだけど、次は晩飯の時間がくるのね。こうして考えると人間って本当メシばっか食ってんのな。いつもご飯作ってくれてありがとう。

で、晩飯さすがにまた自分で作るのはもうヤダなと思って、どっか外食か中食にしようってなって思い出したのが、近所の小さなからあげ屋さん。注文してから揚げてくれる唐揚げが絶品でね、最近は弁当もやってるらしくて評判なんだけど、我が家だとただでさえいつもは嫁さんがご飯作ってくれるから用事がないうえ、そのうえ近所とは言っても例えばほかのスーパーとか銀行とか郵便局とかドラッグストアとか、他の用事との兼ね合いで考えると動線から外れていて店の前を通ることも全くなくって、利用する機会がほとんどないお店だったんだ。揚げたての唐揚げは本当においしいのだけど。だから、今日なんかほんとちょうどいいやと俺は思って、スキップで僕はそのお店に行って、生姜焼き弁当550円と、唐揚げ5個200円と、ハムカツ110円を頼んでテイクアウトさせてもらったんですよ。もう出来上がりを待ってる時から堪らない良い匂いでね、一日みりんが多すぎて味がぼやけた蕎麦とソーメンしか食ってないわけだから、油がハンパ無く、そそるわけ。で、はい出来上がりって平べったいプラ容器に詰められた生姜焼き弁当と、100円で売ってるグミの袋くらいの大きさの紙袋に入った唐揚げとハムカツを渡されて、手提げのビニール袋の底に置かれた生姜焼き弁当の上に揚げ物が入った紙袋を置いて僕は家路を急ぐわけ。早く食べたいなーつって。

それでルンルン歩いてたらさー、あるあるじゃないですか、弁当詰めたプラ容器がどんどん縦に傾いてくるんですよ。せっかくキレイに盛り付けられたおかずが下へ下へと寄っていくわけ。生姜焼きのタレがポテサラに恋をしたみたいな感じでガンガンかかるわけ。それが気になって弁当が水平になるよう直そうとしたその時ですよ。ビニール袋の口が上を向いていて弁当が縦になっているわけ、それを直そうと弁当を水平にしようとするとビニール袋の口もほぼほぼ横を向いてるわけ、ここで滑り落ちたわけですよ、揚げ物の入った紙袋が。唐揚げ5個と110円のハムカツが入った紙袋が。そんな紙袋なんざ口がちゃんと閉じてるわけないじゃん、詰めてほんと詰めっぱなしですよ。地べたアスファルトに落ちた、そのままこぼれた、コンマ何秒の世界ですよ、紙袋が地べたに落ちて揺れたコンマ数秒後、唐揚げ2個とハムカツ1枚がこぼれた!!

今だ!

今だ食べごろだの顔で僕は腰を落とし唐揚げ2つを素手でパクっといったよね。実に15年とかぶりの3秒ルール、いや、この15年さ、たくさんの落ちた食べ物を見捨ててきたよ。一回落としたものなんて食べるものじゃない、犬じゃないんだから。もっともだとその言葉に尻尾を振って生きてきましたよ。人間らしく生きたいと思いながら人間らしく生きられているかなと枕を濡らしながら生きてきました。でも、この日はいっちゃったね、だって俺、朝からたぶんだけどみりんが多すぎて味のぼやけた麺つゆの味しか口にしてないんだもん。無理だって。頭より先に口が、唐揚げをパクついてたよ。実に15年ぶりの、3秒ルールの拾い食いだったよね。

でもさ、唐揚げまでだったよね、一番の贅沢のハムカツはそれでもいけなかったよ、最初に唐揚げ二つパクついたその直後に手は伸びたけどいけなかったよ。だって半面ペタって地べたにいってるわけじゃん。いわば唐揚げは北海道なのよ、地べたについたと言ってもあのなんか函館がある猪八戒の武器の先端みたいな形の半島あるじゃん、あの先っぽがサスマタみたいに2つに分かれてて、あと最南端があるあの尖ってるところ、せいぜいその3点じゃん、地べたにちょっと触れたとしても触れてるのはそのわずか3点だからイケる、3秒以内ならイケる、けどハムカツは、ハムカツはリアス式海岸だから、ほぼほぼ面でいっちゃってるから、そりゃサクサクの衣があるのはわかるけど、リアス式海岸だから。片面がもう、まるっといっちゃってるから。大地と接吻しちゃってるから、そういう部族のアフリカ人とキスできるかって言っちゃうと差別主義みたいな話に聴こえるかもしれないけど、そうじゃないから、何より俺も今さっき一回思いっ糞地面に落ちた唐揚げっパクっと言ってるところだから。さすがに無理だったよね、悔しかったよ、3秒ルールを持ちだして食べることはできなかったよ、ハムカツ。これが横になってアスファルトにベタっていくんじゃなくてさ、タイヤみたいに縦に転がってくれていればなぁ。そうすれば僕は、転がりゆく君を救い上げ、二つに割り、地べたに接した部分を避けるように、次のラウンドで決めようとするボクサーがマウスピースをパクっといくように、半円型になったハムカツの外周を避けるようにパクっといくことができたのに。でも君は、片面ベタッといったから、いってしまったから、3秒ルール適用する度胸は僕なんかにはないよ、だからごめんよ僕は君を食べられないよごめんよって、僕は一回地べたに落ちた唐揚げ二つを頬張りながら、僕は思ったんだ。

(30歳・会社員・男性)