←ズイショ→

ズイショさんのブログはズイショさんの人生のズイショで更新されます!

強調しすぎたアンガーマネジメントをする清掃員のおっさん

あのー、引っ越したらゴミ出しのルールが変わって。前のアパートは専属の業者を雇ってるだかなんだかで「基本的な分別さえしてくれたら毎日いつでもゴミ出していいよ」みたいな感じだったんだけど、新しいマンションはペットボトルは何曜日!アルミ缶は何曜日!とか割と細かいみたいで、まあ向こう何十年も挨拶することになる他の住民にマナーの悪いやつと思われるのも癪だし、ちゃんと従うかーと思ってもそんなん気にしてゴミ溜め込むのが超面倒なの。だから、近所のスーパーの回収ボックスでペットボトルとアルミ缶は処理しようってことにしたのね。

で、さっきさ、いつものように回収ボックスの前でペットボトルのキャップを外しては捨てキャップを外しては捨てをしてて。

理屈は知らんがキャップとペットボトルは分別して別のボックスに入れなきゃダメなんだって。

で、かったりーなーって思いながらやってたらさ、清掃員のおっさんがやってきて、ちょっとすいませんねーって僕に会釈して回収ボックスを開けてペットボトルがパンパンに入った袋を回収したのね。で、僕もありがとございまーすって会釈してペットボトルの蓋外しては捨ての作業に戻ったんだけどさ、突然僕のすぐ横でおっさんが絶叫し始めたんですよ。

ちきしょ〜〜〜!!!!ふざけやがって!!!やっぱ入ってやがる!!!

キャップがよ〜〜〜!!!!なんで入ってやがんだよクソがよ〜〜〜!!!

ふっざけんなこの!!!!キャップが!!!キャップが入ってやがんのかよ〜〜〜〜!!!!

おおおおおおおお、お〜、おおおおおおおお!!!!

っておっさんこんな怒ってるおっさん初めて見たかもくらい怒っててめちゃめちゃ怒ってるとしか言い様がないくらい怒ってんの。

おおおおおおおお!!!キャップがよ〜〜〜〜〜〜!!!!

キャップ外せよ!!!!外さなくちゃ、ならんのだろう〜〜〜〜!!

おっさん、袋をがさっがさ言わせながら絶叫してて、ペットボトルを掻き分けてキャップついたまんまのペットボトルを探して

あったじゃねえか、底の方によ〜〜〜!!!ふざけんなよ!!!キャップがあるだろうがよ〜〜〜!!!

更に更にペットボトルを両手で掻き分け掻き分け奥の底にあるキャップがつきっぱなしのペットボトルをむんずと掴み

ほら、ついてるじゃんね〜〜〜〜!!!

キャップがついたまんまんじゃんね〜〜〜!!

つって。うわ、このおっさんいだてん見てるじゃんと思って。ごめん、今のは盛った。じゃんねは言ってなかったけど、それ以外はマジで言ってる。絶叫で。

いや、ほんと、僕も33年生きてきたけど、こんなに怒ってるおっさんって、いる?ってくらい怒ってて。いや、俺はちまちま外してるけどさ、善良な市民だから。キャップつけたまんま捨てる善良じゃない市民なんざいくらでもいるだろ、つまり、いつものことだろ。いつものことに人間って毎回こんなに新鮮に全力で怒れるもんなの?嘘でしょ?と思いながら横目で見てて。

で、その怒り狂いながらのおっさん分別チェックが終わっておっさんも一息ついたくらいのところでちょうどよく別の一般客のおっさんがやってきてね、キャップがついたまんまのペットボトルをそのまま回収ボックスに捨てたんですよ。

うわ、て思って僕がおっさんの方をパッて見たら、家政婦は見たみたいな表情でおっさんを見てるの!

いや、おっさん二人だから状況の説明が難しいな、整理しますね。

一般人のおっさんが分別せずにペットボトルを捨てたことによって分別しないおっさんになって、うわっと思った僕が清掃員のおっさんを見ると清掃員のおっさんは家政婦のおばさんは見たの表情で分別しないおっさんを見たの顔をして見てたんです。

余計ややこしいな、あと家政婦にはおばさんつけなくてよかった。

とにかくこれはとんでもないことになるぞと思って、逃げろおっさん!お前は知らないだろうがお前が今この瞬間に敵に回したおっさんはただのおっさんじゃないぞ!世俗に生きる凡百には到底発揮できないであろう純然たる怒りという感情を秒で湧き上がらせ身体表現に昇華させることができるという怒りというギフトを神から承りしおっさんだぞ!!穏やかな心(エコの精神)を持ちながら激しい怒りに目覚めたスーパーサイヤおっさんだぞ!見れる見れる見れる!おっさんとおっさんの本気の取っ組み合いが見れる!おっさんがおっさんを巻き投げしてるところが見れるかも!いやー、生きてるとたまには良いことあるな〜、スーパーの前の路上でおっさんがおっさんを巻き投げしてるところが見れるなんてな〜、いけ!おっさん!いつも他人の分別の尻拭いをさせられてるその怒りを、この、特に描写する必要も感じさせないえんじ色のセーターを着たおっさんにぶつけるのだ!!お願いお願い一生のお願い、おっさんがおっさんを巻き投げしているところを俺に見せてくれ!!

って俺が一瞬のあいだに思ったその次の瞬間、清掃員のおっさんはニコッと笑って至極おだやかな調子で、すいませーん、キャップは外してくださーいって、おっさんに声をかけたの。そしたらセーターのおっさんも、あ、すいませーん、つって、一回捨てたペットボトルを取り出してキャップを外して捨て直したの。

あ、すげーなと思って。この清掃員のおっさんは怒り狂いながら分別されてないペットボトルを処理しつつも、その怒りを分別しない他人には向けないんだ、と思って。今の日本人に足りないのは、おっさんのこの心だなと思って。やってらんないよね、怒りながらじゃないとやってらんないよね。仕方ないよ。意味わからんくらいブチ切れながらじゃないと、他人の分別の尻拭いなんてやってられないよね。理不尽に屈さずに自分を奮い立たせるために怒り狂うことは、理不尽だらけの世の中を生きていくうえで必要なことだよね。ただ、世の中の理不尽を減らすために、他人を変えていくために必要なのは、怒りだけではないのかもしれない。そのまま怒りを他人にぶつけるのは簡単なことだし、おっさんだって本当はそうしたかったのかもしれない。俺も巻き投げ見たかったし。

でも、そうじゃないんだな、怒りは怒りで持ち続けながら、攻撃的にはならずに相手と対話して、相手を変えていく。結局そうしていくしか、ないのかもしれないな。今回は注意されたからそうしただけで、セーターのおっさんはこれからもあの清掃員のおっさんのいないところではペットボトルのキャップを分別しないで捨てるかもしれない。でも、今回、ペットボトルをわざわざ拾い直してキャップを外したんだから、次からもちゃんとキャップを外すようになるのかもしれない。その可能性を信じてるからこそ、おっさんは巻き投げではなく笑顔の声がけを選んだのだろう。巻き投げ見たかったけど。

おっさんの実際のところの胸の内はおっさんにしかわからないけれど、僕はこの3分足らずの出来事から何かを学んだ。おっさん怒り方尋常じゃないけど、怒る場面を選んでた。まあ、公衆の面前であの怒り方はやっぱどうかしてるとは思うけど、アレを見たら誰だってキャップちゃんと外そうと思うだろうし、奮い立たせるためでもパフォーマンスだったとしても、一人で勝手に怒るのは別にそんな悪いことでもないだろう。その怒りを他人に直接そのままに向けるではなく、全く怒ってる素振りを見せないでもない、あのおっさんのアンガーマネジメントには、めちゃめちゃ極端ながらも見習うところもあり、僕も頑張ってこの社会を良くしていこうと思ったのであった。

終わり、の前に、余談。

想定される突っ込みとして、このおっさん、おっさん相手だから下手に出てるだけだったんじゃないの?があります。僕もそれは思った。思ったので僕はこの出来事を見た直後、回収ボックスを遠巻きに眺めながらスマホを取り出し、このブログの冒頭を書き始めた。おっさんがペットボトルじゃない他の回収ボックスの処理を淡々と進めていくのを眺めながら。他にキャップつけたまま捨てる奴が来ないかなと待ちながら。

その瞬間まではあまり時間はかからなかった。間も無くして、若い女性が回収ボックスまでやってきて、キャップがついたままのペットボトルを捨てた。その時もおっさんは穏やかな調子で注意しているのを、声は聞こえないが遠巻きに眺めていた。この時俺はおっさんの絶叫シーンを書いている真っ最中のところで、その時点で、結びをこういう形にしたいなと思っていたので、ありがとうおっさん、あなたはやはり善良なおっさんだった、これで全体の構成を変えることなく書き進められる、と、俺は思ったのであった。

人によっては、最初のセーターのおっさんのパートを端折って、最初に分別しなかったのが若い女性だったことにしておけば、こんな回りくどい構成にする必要もなく、怒りを他人にそのままぶつけるのは良くないかもしれないよねというシンプルな良い話になったのでは?と思うかもしれない。

そうしなかった理由はただ一つ、あの時僕の脳裏を駆け巡った、おっさんがおっさんを路上で巻き投げするその画、その画がこれから見られるかもしれないというその興奮、それを僕が読者と共有したかったという、その一念である。

それはそうとして巻き投げ見たかった〜!

以上です。