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【読み物】三角関係なんかに関わるもんじゃない

去年の暮れ頃からだろうか、実は僕は新たにいわゆる行きつけのバーってやつができて、そこの馴染みの連中5,6人と結構親しい付き合いをさせてもらっている。最低週1ではお店に顔を出すし、そればかりかゴールデンウィークには一緒にBBQもしたし、7月の連休には海にも行った。酒が入るとみんなすぐに俺に一曲歌えとせがむから俺はどこに行くでもアコースティックギターと一緒だ。みんな仕事も趣味もバラバラなのだが一緒にいるとなかなか悪くない気分にさせてもらえるんだから不思議なものだ。社会人になると人間関係が希薄になると人は言うが、こんな仲間たちがいる俺はなかなかどうして幸せなやつなのかもしれない。

ある日、その仲間の一人であるコウタがいつもと違う場所で飲まないかと連絡を寄越してきたので俺は珍しいなとは思いつつも特に断る理由もないので二つ返事で誘いに乗った。それで待ち合わせ場所で時間どおりに顔を合わせた僕らはコウタが案内してくれたいつもとは違う店でいつものように酒を飲み始めたが、コウタはなんだか改まった調子なので何かあるならもったいぶらずに言えよと僕が促した。するとコウタは実は仲間内の一人のナナコが好きで告白しようと考えてるんだと打ち明けた。僕は苦い顔をした。ナナコとユウスケがどうやら付き合っているらしいことはグループの誰しもが預かり知るところであった。もちろんコウタとてそのことを知らぬはずがない。知ったうえで今こうして僕に話しているのだろう。少しだけ逡巡した後、僕はコウタにこう答えた。

「みんないい大人同士でナナコとユウスケは結婚しているわけでもない。大人がどんな恋愛をしようとそんなことは人の勝手だ。だから俺は無理に君のことを止めるつもりもない。ただし積極的に応援するつもりもない。ひとつ忠告するならば、君はユウスケにこのことを先に告げるべきだと思う。ユウスケがどのように受け止めるかは分からない。しかし、僕はユウスケに告げるべきだと思う。もちろん君がこの僕の忠告を聞き入れるかどうかわからない。絶対にそうしろと言える立場に僕がないのも重々承知だ。俺は君に伝えるべきことは全て伝えた。だから、後は君の好きにすればいい。ただ、今後これ以上のことはもう僕には伝えてくれるな。君がどのような手順でナナコにアプローチするのか、それは君の自由だが僕はそれを知りたくはない。報告もいらない、もってのほかだ。もし君が今後僕の耳にその後の顛末を聞かせようとするならば、僕はそのすべてをユウスケに打ち明けるだろう。そのことだけはよくよく理解してくれ。今日のことは聞かなかったことにする。それでこの話は終わりにさせてくれ」

コウタは少し面白くなさそうな顔をしたものの一応は納得した様子で、その話はそこで終わりその後は他愛もない互いの趣味の話などを話し込んでいた。しかし、やはりと言うべきか、その日の会話はいまひとつ弾まず、しばらくして僕らは店を後にした。その日はそこでコウタと別れた。

そんなことがあったので、僕はそれからしばらくなんとなくバーに足を運ぶ気が起きなくて距離を置いていたのだけど、コウタと会った日から3週間ほど経った頃、ユウスケから連絡があって久し振りにバーに顔を出さないかと誘われた。なんとなく気まずい思いがして断ろうとも思ったが、なんとユウスケは僕の家のすぐ近くまで来ているので迎えに行くよとまで言い出した。ユウスケは皆で連れ立ってレジャーに行く時にいつも車を出してくれていたので僕の家も知っているのだ(余談だが、ユウスケはその立場をうまく利用してナナコと二人になる機会を作っていたどころかそれが狙いで車係なんて損な役割を買って出ていたのだろうと僕は邪推している)。「頼むよズイショ、みんなもお前の歌、久し振りに聴きたがってるぜ」。そこまで言われてしまっては行かない方がなんとなく気まずいので僕はギターを担ぎ、ユウスケとともに久し振りのバーへと向かった。

そんな僕の様子を不審に思って後を尾けた和尚が見たものとは、既に廃墟となった無人のバーで一人、斉藤和義を弾き語る僕の姿だった。和尚はリア充の霊に取り憑かれた僕を助けるべく僕を裸に剥き、その全身に中島みゆきの歌詞を写経してくれました。しかし、耳にだけは歌詞を書き忘れていたため僕はリア充の霊(ナナコ)に耳を引きちぎらてしまうのです。その後、シートンに虫食いと名付けられた僕は狼王ロボと戦う力を手に入れるため修行の旅へと出掛けましたとさ。めでたしめでたし。