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永田カビ『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』感想文

読みましたー。

さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ

さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ

 

あのー、それで今週のジャンプの『火ノ丸相撲』の話なんですけど、火ノ丸相撲!? お前、「永田カビ『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』感想文」ってタイトルでamazonリンクも貼って、なんで今週の火ノ丸相撲の話始めんの!? 馬鹿なの!? いやまー、両方裸が出てくる漫画だから。全然関係ないわ、馬鹿だろ、お前絶対馬鹿だろ! 馬鹿じゃないからほら両方とも裸が出てくる漫画で一つのコマに描かれる裸の数がだいたい二つ、で、その二つの裸がわりと密着してるってとこまで含めての話だからね。いやいやいや全然含めれてないから、何言ってんの?お前何言ってんの? わかったわかった言い過ぎた!言い過ぎたけど、それでも本当関係ある話だから!ちゃんと関係ある話だから、一瞬だけ!!一瞬だけ火ノ丸相撲の話させて!!今週号の火ノ丸相撲の話させて!!今週号の話なのでネタバレ注意です。いや、だからなんでこいつ、『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』感想文で『火ノ丸相撲』のネタバレ注意喚起してんの!? こいつ絶対馬鹿だろ、お前もそう思うよな、なぁ、犬!!

犬「わん!!!!」

はい、そういうわけでね、今週の『火ノ丸相撲』で、あ、これは名言ですわ、すわ名言ですわ、すわ~~~~~と思うセリフがあって、

諏訪「すわ~~~~~~~~~~~~~~」

え、何、今の? 今のおじさん誰? 今、窓の外からすわ~~~~って言ってきたおじさん誰? レッドブル片手にすわ~~~~って言ってたおじさん何? こわいこわいこわい、追って! 追って、犬!!

犬「わん!!!!」

えー、そういうわけで犬種はアフガン・ハウンドなんですけども、諏訪のおじさん絶体絶命のなか話を続けますけど今週の火ノ丸相撲に、こんなセリフがありまして、「あいつには壁なんてないんです。あるのは距離だけ・・・だから何も恐れず全力で駆け抜ける」なんてセリフがあったんですね。これすごい大事なことだなと思って。なりたい自分があったとして、それが今の自分ではどうにも届く気がしないとして、そこにあるのは壁なのか、距離なのか。隔てられているということと、遠くに見えるということには随分な違いがあります。壁は越えるか、壊すかするしかないけれど、それってやっぱり大変じゃないですか。そんなにえいやっと、なかなかできることじゃないですよ。でもそれを距離と思うことさえできれば、それは地平線の果てにうっすらと今はあんなにも小さくしか見えなかったとしても、今の自分とそれはきっと地続きなんだと思うことができれば、「何も恐れず全力で駆け抜ける」なんてことは難しいかもしれないけど、一歩ずつ、一歩ずつ、進んでいくことができるんじゃないか。はじめの一歩を踏み出すことができるんじゃないだろうか。永田カビさんの『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』は、そんな、自分のなかにある壁を丁寧に丁寧にほぐしてやって、壁を距離に変換してやる物語、そうしてはじめの一歩を踏み出して、一歩ずつ、一歩ずつ進んでいこうとする、そんな物語に僕には見えたのです。

特に前半なんか読んでる最中はやっぱり結構疲れちゃいましたよね。全部ボタン壊れてるたまごっちをやらされてるような感覚。腹を空かせてるわウンチは溜まってくわでたまごっちどんどん弱ってくけど、ボタンが壊れてるから俺にはおにぎりをあげることもウンチを流してやることもできない。いわゆる共感みたいな感覚でこの漫画を読む人もいっぱいいるんだろうなと思うけど、僕にはそれができなかった。そのままの意味で(否定したい意味ではなく)僕には共感できないのだ。簡単に「わかるよその気持ち」なんて言ってしまってはそれは間違いなく嘘になるし失礼だとも思う。自分だってそれなりに悩んだり生きにくいなぁと思うことはあるつもりだけど、たぶん向こうからしたら僕なんて「ええかげんそうな俺でもしょーもない裏切りとかは嫌いねん」の人と大して変わらないように見えているのかもしれないっておいいいいい!!!自虐するなら自分一人で自虐しろよ、なんで三木道三もあんまり悩みとかないだろみたいな感じで巻き込んでるんだよ、僕はそんな人間なもんですから読んでる間中、嗚呼おにぎり食わせたいウンチ流してやりたいとハラハラしっぱなしだったし、自分は勝手におにぎり食ってウンチもない部屋にいて呑気にライフタイムリスペクトしているのがなんだか申し訳なくなってくるやらで、そういう種類の痛みに似たようなものは感じたのだけども、それも彼らの感じている痛みとは遠い遠い全然別物の痛みで、その距離がまた僕をなんだか申し訳ない気持ちにさせるし、申し訳なく思っときゃいいだろと思って申し訳なく思っといてるんだろと僕のなかのありのまんま俺のこと見てくれやが囁きかけてくるのです。

そうして作者さんはボロボロになりながらも、自分の身体が、心が、今どういう状態にあるのかを考えて向き合い続ける。ここらへんは普通に、なんつーかこの人、漫画超うめえの。絵もうめえけど、それ以上に、漫画がうめえ。あの松井優征の漫画でさ、今起きている状況とかシチュエーションをセリフで説明しているようなコマで比喩的なイメージ映像を描いてる時とかあるじゃないですか、全ページがだいたいあんな感じ。だから彼女の心象風景がダイレクトに伝わってきて読んでる方としては余計きつかったりするんですけど、そういうふうに言語化してイメージ化して図式化してデフォルメしてっていうのがどうやら彼女のやり方で、最強の武器で、それはまさに現実で私を取り囲む何かという壁を、自分が欲しいものとの距離に変換する作業なのだろうなと思う。そうなのだ、彼女は欲しかった。ちゃんと欲しがろう、ってのが彼女が七転八倒の末に辿り着いたひとつの答えで、それを手に入れるための手段のひとつ、はじめの一歩が、タイトルにあるレズ風俗だったりしたわけだ。自分の性への興味を自覚するシーンは、『SLAM DUNK』の「安西先生、バスケがしたいです」に似た感動があった。自分を徒にいじめるんじゃなしに、捨て鉢になるんじゃなしに、イライラするんじゃなしに、自分は何がしたいのかと向き合ってそれをはっきりと口にする。それってけっこう難しい。そこからまぁなんか色々あって当日に向かうわけだけど、人に会ってそのうえ裸でいちゃつくってことなんでお風呂に入ったり身だしなみを整えたりを心がけるようになる下りがあるんだけど、そこで自分をきれいに保つことイコール自分を大切にすることみたいな言葉があって、俺は、そこで、嗚呼たまごっちのボタンは壊れてるんじゃなくて、彼女のたまごっちのボタンを持っているのは彼女自身だったんだ、と気付いて、恥ずかしくなった。

そんなこんなで風俗行ってその後日譚があって、本書はおしまいとなるわけだけど、もちろんそれは本書がおしまいなだけでこれで一切合切がうまくいってめでたしめでたしと片付けられるような話でもない。この本で描かれているのはあくまで彼女がはじめの一歩を踏み出すまでの物語で、彼女の物語は彼女自身によってこれからもずっと続いていく。『はじめの一歩』でいうとたぶん一歩がプロテストに合格したところくらいで、一歩がデンプシーロールを習得したり板垣が東日本新人王に輝いたりするのはまだ随分先の話。あと板垣編の時ってどういう気持ちで読めばいいのか未だによくわからない。それでも、彼女の眼前にあるのは立ち塞がる壁ではなく、それは決して平坦なものではないのかもしれないけれど、彼女の眼前に広がるのはたしかに道であり、立ち止まることもあるだろうけど、膝をつくときもあるのだろうけど、それは足をひとつだけ前に投げ出せば投げ出した分だけ前へ進める、自分の行きたいどこかへと続く道であり、その事実は控えめに言って希望と呼べるような代物なのだろう。

欲求は人によってそれぞれで、それがその人の心からの望みなら、どんな形をしていてもいいと思う(人にどうしても迷惑をかけてしまう形の欲求の話は今は置いておく)。そのうえで僕個人の話をするなら、やっぱり僕も一人は寂しいと思った。誰かとつながってぬくもりを感じたいなと思った。けど、それってやっぱり簡単なことではなかったりもするのだ。ある意味で、それは壁を壊してハイ終わりなんて話よりよっぽど大変な話なのかもしれない。つながりたいあなたは薄皮一枚の向こうにはいない。僕にとっての貴方は遥か遥かの彼方にいる。そこには絶望的な距離がある。それでも、その距離はきっと地続きで、その事実は確かな希望だ。だから僕だって誰だってあなただって歩いていくよりしかたない。自分を大事にして、毎日を大事にして、あなたに出会うその日がくることを信じて日々の生活を歩いていくしかないのだろう。でもあれ、ちょっと待って、それってまさにライフタイムリスペクトってことじゃない?あれ?じゃあやっぱ三木道三じゃん!このことを既に歌にしていた三木道三すごっ!!三木道三すっごっっ!!!!アフガン・ハウンド脚速っ!!!諏訪のおじさん、もっと速っっっっっ!!!!もうあんなに小さい!!!!もうあんなに小さい!!!!アフガン・ハウンドと諏訪のおじさん脚速っっやぁぁぁぁ!!!!翔んだああああ!!!諏訪のおじさん翔んだあああああああ!!!!もう見えなくなった!!!翼を授けるレッドブルすっごっっっっ!!!!!困惑して立ち止まり右往左往するアフガン・ハウンドかわいっっっっっ!!!!!三木道三すっごっっっっ!!!!! 『さみしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』もすっごっっっっ!!!!!この世の中すごいもの多っっっっ!!!ライフタイムリスペクトっっっっっっっ!!!!!! 以上です。