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【読み物】はてなブログと僕

「いやーこれ、ほんとすごい良いなぁ。WRITE YOUR STORYだって。ね? かっこいいよねえぇ。『「4年間で変わったこと、変わらないこと」はてなブログは4周年!』って文言をエントリ内に記載すると抽選で20名様にこの限定オリジナルトートバッグが当たるんだって。オシャレだなぁ。オシャレでまたカジュアルすぎず、このパキッとしたモノトーンの色づかい。意外と、結婚式の二次会くらいなら持ってけちゃうんじゃないかなぁ。さすがにそれは難しいかなぁ。でも着こなしによってはあるいは……? いやぁ、僕なら欲しいなぁ。ブログエントリを書くだけで応募できちゃうなんて、太っ腹だよなぁあ。いや、ほんと、僕がはてなブログのアカウント持ってたら絶対応募しちゃうけどなぁあ」

 言いながら、頭に大きなペン先を被った映画泥棒のペン先版みたいなおじさんが僕の方をチラリと見たのはもうこれで何度めか。

 僕は今、あとは会計を済ませるだけというところの病院内で明らかに変なおじさんに絡まれていた。季節の変わり目だからだろうか、待合ロビーは子供の泣き声やら老人同士の笑い声やらの大賑わいで受付の向こうも明らかにバタバタしているのが見てとれる。僕の名前が呼ばれるにはまだ随分時間がかかるのかもしれない。そしてそんな喧騒のせいかペン先を被った明らかどうかしているおじさんのことも誰も気に留めている様子はなく、僕は僕以外にはこのおじさんは見えていないのではなかろうかと胸の内に多少の不安を覚えている。

「4周年か~、すごいよね~、4周年って言ったら、小学6年生が高校生になるくらいの月日が流れてるわけだからびっくりだよね~、びっくりぽんだよね~? あ、びっくりぽんは流行語大賞獲れるかな? あ、ノミネートするとしても来年か! ズイショさん、どう思う? ちなみに4年前の大賞はなでしこジャパンだったわけだけど、あの快挙から4年、今年のW杯でも活躍していた澤穂希選手もすごいよね~。ていうことは、はてなブログも澤選手くらいすごいってことだよね~」

 澤の方がすごいに決まってるだろ。僕は内心毒づく。

 このペン先おじさんはさっきからこのように、言動の端々に突っ込みポイントを織り交ぜながら、僕の反応を窺っている。これまで何とか茶番に目を瞑り続けてきた僕だったが、このままでは埒が明かないと遂に意を決し、おじさんの目をきっと見た。おじさんは目を逸らした。なんでだよ。

「なんなんですか、おじさんさっきから。何か用があるならはっきりと言えばいいじゃないですか」

「いや、だからズイショさんもさ、リリース当初からではないにしても2年半くらい継続してはてなブログで書いてるわけじゃないですか。やっぱそういうエントリ書いてくれてもいいかなって思うじゃないですか。ほら僕そういう義理みたいなの結構期待しちゃうほうじゃないですか」

「何そのむかつく言い方。おじさんほんとに京都?」

「京都じゃないですか~。それにやっぱユーザーに愛されてるはてなみたいなイメージ欲しがっちゃう僕の気持ちもズイショさんだってわかるじゃないですか~。ブリーチ13周年イラスト寄稿してる漫画家少なっ!みたいな感じは避けたいわけじゃないですか~」

「だからって何も、俺みたいな弱小ブログのところに来なくたっていいじゃないか。もっと、リクナビNEXTジャーナルとかそれどこで買ったの?とかに寄稿してるブロガーがおじさんには沢山いるじゃないか! そいつらに頼みにいけばいいだろ!?」

 おじさんは真顔で僕の顔を一瞬じっと見たがすぐにまた目を逸らした。いいよ、今のは俺が悪かったよ、寄稿の依頼が来ないのはぜんぶ俺のせいだから! 僕は慌てて取り繕う言葉を探す。

「今のは言い過ぎたよ、生々しい言い方をした僕が悪かった。緑川光とか鶴光に頼めよとかそれくらいにしておくべきだったよ……」

 覆水盆に返らず。ペン先おじさんはうつむいたまま口を真一文字に結んでいる。僕は観念して、エントリを書くことを決意した。一度おじさんをこうもしょぼくれさせてしまっては、早々におじさんをさっさとここから帰す手立てはもうそれしか残されてはいない。ここは会計を控えた病院の待合ロビーであるということは忘れてはいけない。一刻も早くおじさんを帰さなくては受付に名前を呼び上げられておじさんに僕の本名を知られてしまうかもしれないのだ。それだけは何としても避けなくてはならない。

「わかったよおじさん。俺、書くよ、今週のお題

「本当に!?」

 ペン先おじさんはお前さっきまで落ち込んでたの絶対嘘だろとしか思えないイノセントな瞳で顔を上げた。しかし背に腹はかえられない。「株式会社はてなに個人情報登録したくない」は、僕がはてなPROへの申込みを拒む言い訳の最後の砦なのだ。この言い訳がなくなってしまってはこんなにお世話になっているはてなにお布施をしないわけにはいかない。だからと言ってせめて元を取るために広告設定するとかも俺は面倒だからやりたくないのだ。あと気軽にポコチンとか言えなくなるのもイヤだ。だから、なんとしても「偶然たまたま」であろうとも僕の個人情報をペン先おじさんに知られるわけにはいかないのだ。なし崩し的に「いいじゃん、もう本名わかっちゃったんだし課金しなよ」みたいな流れだけは勘弁、俺ははてなPROには入会せずその代わりにジャンプSQを買っていたいのだ。もう少しだけ、少年でいさせて欲しいのだ。そう、せめて大場つぐみ小畑健コンビの連載が完結するまでは。

「しかし、おじさん、そうは言っても何を書けばいいのかよくわからないよ」

「いや、お前何を書けばいいのかよくわからないって今更どの口が言うかね。4年もあればズイショさんも色々あったでしょ? それをそのまま書けばいいんだよ、なんだったらはてなブログを始めてからのことを書いてくれてもいいんだよ」

「ああ~、今じゃないわ。はてなブログのこと振り返るのは一番今じゃないわ。半年前だったらたぶんめっちゃ書いてたけど今は一番ないわ」

「どうして? ズイショさん、はてなブログ に飽きちゃったの?」

「いやいや最近もめちゃめちゃ更新してるっちゅーねん」

「どうして? どうして今急に関西弁になったの?」

 イノセントな瞳のペン先おじさんのイノセントな瞳はとても目潰ししたいイノセントさを輝かせた。

「この4年間色々あったじゃない、ズイショさん。ベビーカー問題とか、身内ブクマ問題とか、非モテ問題とか、掛け算の式の順番問題とか、幼稚園手作り推奨しすぎ問題とか」

「それぜんぶ年1,2のペースで出てくる問題じゃないか。4年間色々あったってたぶんそういうことじゃないと思うよ僕。だから、要するにね、おじさん。やっとそういうのがどうでもよくなってきたんだよ。もちろん気になる話題があれば今後も首を突っ込むけどね、首を突っ込むとかそういうのも含めて、生活の一部になってきたなって感じが最近じゃしてるんだ。それこそはてなが言ってるような人生の物語を書き残すって感覚? 今までは自分の書いた文章が自分から離れて好きに読まれる感覚だったんだけど、もちろんその感覚は今もあるんだけど、それだけじゃなくて自分が文章を書いた感覚がその裡に自分の中に留まるような、そんな気分が最近は強くなってきたように思うんだ」

「なるほどですね~」

「おじさん僕まじめに喋って損したよ。まさかこのタイミングでIT企業の鼻につく一面を覗かせるとは思わなかったよ。だから、結論だけ言うとね、これからも書いてくつもりだから、よろしくねってことだよおじさん」

 ペン先おじさんはそれを聞くと照れくさそうに顔をそむけ鼻の下を人差し指で擦った。古っ。そして満面の笑みでこう言うのだった。

「…はい、喜んで!」

 僕はなんだかとてもイラッとした。

 

 とりあえず家に帰ったら必ずエントリを書くと約束した僕に満足したのか、ペン先おじさんはずっと腰を降ろしていた革張りの3人掛けのベンチを立つと大きく一つ伸びをした。そして、思い出したようにトートバッグの中から何かを取り出し、僕の前にぶっきらぼうに突き出した。それは、おじさんが頭にかぶっているのと同じフェルトで誂えた大きなペン先だった。

「ズイショさん、トートバッグは当たるかわからないけど、これを受け取ってくれないか? はてなブログを愛しているなら、きっと被ってくれるよな」

「ごめん、そういうのじゃないから」

 ペン先おじさんは悲しそうな顔をして去って行った。これまでのおじさんの言動を考えるとやけに素直に去っていくのが逆に不気味だった。

 そうして会計を終えた僕は家路に戻り、こうしてまたブログを書いている。いつまで続けていくのかはわからないけれど、きっと一週間後も、一か月後も、そして一年後も同じように書いているのだろう。なんとなくだけど、今はそんな気がしている。

 処方された薬を受け取るために病院のすぐ向かいにある薬局を訪れた時、もしどうしてもペン先を渡したいペン先おじさんが先回りしていたら面倒極まりないので、全面ガラス張りになっている正面から中を覗き、おじさんがいないかだけ確認してから僕はドアを潜った。それくらいの用心は常にしながら、僕は今後もブログを書いていこうと思う。ちなみにペン先おじさんは案の定で駅の改札前のほうに張ってやがったので一駅歩いてから電車に乗って帰った。

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