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思いつきインド版桃太郎

「おじいさん、おばあさん、私はこれから鬼が島に鬼を退治しに参ります。」

 桃太郎のその言葉を聞いたおじいさんは俯き黙り込み、おばあさんは大粒の涙をこぼしながら歓喜の声をあげました。

 おばあさんは狂っていた。

 望まざる形で孕み腹を痛めて産んだ我が子を、おばあさんは桃太郎と名付け「この子は私が川で洗濯をしていた時にどんぶらこどんぶらこと流れてきた桃から生まれた子供なのだ、やがて鬼を退治しにこの村を発つのだ」と村人たちの間に喧伝して回り、おじいさんはそんなおばあさんと桃太郎を甲斐甲斐しく支え続けました。村人たちは真相をすべて知っていた。

 そんなおばあさんだからこそ、桃太郎のその申し出にもう大喜び。一晩のうちに「印度一」ののぼりを作り、カレー味のきび団子を拵え、翌朝には桃太郎を送り出しました。おじいさんは何も言わず桃太郎の背中に手を振った。

 それからしばらくして桃太郎は犬と猿と雉を引きつれ、金銀財宝を携えて村に帰りました。村の一同は戻った桃太郎を快く出迎え、さっそく宴の席を設けました。桃太郎の口から語られる冒険譚の概要はみなさんもご存知のとおり、ただしもちろんインドなので色気・笑い・哀れ・勇猛さ・恐怖・驚き・憎悪・怒り・平安の9要素が忌憚なく盛り込まれておりました。

 おばあさんは桃太郎の口ぶりに耳を傾けながら「流石は桃から生まれた桃太郎、流石は桃から生まれた桃太郎」と嗚咽を漏らしておりました。おじいさんは桃太郎の言う「鬼」が一体何であったのかしばらく考えましたが、やがて考えないことにしました。

 それからというもの、おじいさんとおばあさんと桃太郎とそのお供たちは、いつまでもいつまでも仲良く、村で平和に暮らしましたとさ。