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悪い芝居『スーパーふぃクション』感想文


京都を拠点とした劇団「悪い芝居」という定期的に「金払ってちょっとしばらく椅子に座っといたら俺らがなんかやりますよ」みたいなことをやる人らがいるんですけど、その人らが大阪は梅田のHEP HALLでしばらく椅子に座っといたら俺らがなんかやりますよーと宣伝していたので、今日ちょっと暇だったんでそこの客席に座って途中で10分休憩があったのでトイレ行って客席に戻ってまた座ってだいたい全部あわせて2時間45分くらいだったのかな。それくらいでもうこれ以上座ってても何も無さそうな感じになったので席を離れて電車乗って帰ってきて、今とりあえず家に戻ってビールをプシュッとやりました。ので、その感想文です。

「おもちゃ箱をひっくり返したような」と形容してしまうと余りに陳腐なのだけれども、今回はまさにそんな感じだった。終始とても楽しかった。なんつーか、「悪い芝居」の作品っていつもなんだかんだ結構暗くて人に勧めるにもやっぱり一見根暗なもんで人によっちゃ細かいことをグダグダうるせえよって思うだろうなってところがあるので、この人に勧めても面白がってくれるのかしらんなんてことが頭をよぎってしまうし、見てる俺も結構引きずっちゃってて前回公演なんて観劇したその日に一回感想文エントリ書いて、数日後にもう一回感想文エントリ書いて、その間もtwitterでそこそこ騒ぎ続けてたからね*1。だけど今回は引きずる予定は今んところなし、本当にそのまんまの意味で底抜けに明るい芝居だった。

「おもちゃ箱をひっくり返したような」とは言うけれども、これは誰のおもちゃ箱なのかというと俺のおもちゃ箱です。たまたま彼らが騒いでるのが見えるところに座ってた俺が、俺がひっくり返したのは俺のおもちゃ箱でした。もしそこに座っていたのが僕ではなく貴方であったのならば、きっとひっくり返されていたのは貴方のおもちゃ箱だったのでしょう。おもちゃ箱をひっくり返してしまったら、お片づけをしなくてはなりません。だって、それは俺だけの、そして貴方だけのおもちゃ箱。今日も明日も明後日も、死んでくたばるその日まで、僕らは自分のおもちゃ箱で遊び続けるほかないわけです。明日に備えて僕らは自分でひっくり返したおもちゃ箱を毎日毎日ちゃんと片付けなくちゃあならない。ひっくり返されてそこら中に散らばったおもちゃ達を一つ一つ拾い集めて、また明日に備えなくてはならない。別に俺はそんなにマジメ腐ったことを言いたいわけじゃないんですよ。おもちゃで遊び終わったら、全部ちゃんと整理整頓して、自分が持っていたおもちゃが全部ちゃんと手元にあるか、確認してから眠りなさい、そんなロッテンマイヤー先生みたいなことを言いたいわけじゃありません。ただ、後片付けをしなくちゃならないとだけ言っている。

おもちゃ箱をひっくり返して、後片付けをしていると、何だか不思議で、どうにも自分にとって都合の悪いことだって往々にして起こります。僕が確かに持っていたはずのおもちゃがない! ずっと大事にしてたのに、ひっくり返す前にはおもちゃ箱の中にちゃんと入っていたのをこの眼で見たはずなのに、どれだけどれだけ探してもどうにかそれだけ見つからない。おかしいな、どこに行ったんだろう? そんなことを考えながら眠る夜が今まで幾度となくあった気がする。でも今になって考えれば、本当に俺はそんなおもちゃ持っていたのだろうか。初めから持ってなかったのに、持ってたはずだと言い張って、最初からアリもしないモノを何処だ何処だと騒いでいるだけということはないだろうか? それとは逆に、気付いたら片付け終わった自分のおもちゃ箱の中に、全く身に覚えのないおもちゃが紛れ込んでいることもある。俺はこんなおもちゃなんて全然知らないぞ。どこでどうやってこのおもちゃと俺が出会っていたのか、まるで思い当たる節がない。それでもいつの間にか僕のおもちゃ箱に入っていたそいつは、じっと眺めてみると何だかどうしようもなく愛おしくて、絶対手放したくないって気持ちが強く強く涌いてくる。そんなおもちゃと一緒に眠った夜が、今まで何度となくあったような気がする。

そういえばあの劇場には、あの時、僕以外にもたくさんの人が座っていた。たくさんの人が、僕と同じように自分のおもちゃ箱をひっくり返していたんだ。劇場を後にして、おもちゃ箱をちゃんと片付けて、そうして気付くと紛れ込んでいた僕の知らないおもちゃ、それでも今の僕にとってはかけがえのないおもちゃ、もしかすると僕は誰かのおもちゃを間違えて持って帰ってきてしまったのかもしれないなぁ。ということはもしかして、僕がいつの間にか失くしてしまったおもちゃも、もしかしてもしかすると今も何処かの誰かのおもちゃ箱で眠っているのかもしれない。いーややっぱり、最初から僕はそんなおもちゃ持っていなかったんじゃないか。いやでも仮に僕が最初から持っていなかったにしても、それは結局、僕がかつて持っていたような気になっているだけの僕が一度も触れたことがないおもちゃが、僕じゃない誰かのおもちゃ箱の底に眠っているかもしれないってことなんじゃないのだろうか。いつかまた見知らぬ誰かと、劇場で一緒におもちゃ箱をひっくり返していれば、俺はその一度も触れたことのない僕の頭の中にしかないはずのおもちゃに、いつか巡り合える日がくるんじゃないだろうか。そんなことを考えていると明日がなんだか楽しみになってくる。だから明日に備えて今日はもう眠ろう。夜は少しだけ寂しいから、お供に抱きしめるのはいつの間にか僕のおもちゃ箱に入っていた、愛おしくて堪らない見知らぬおもちゃ達だ。もしかしたらこのおもちゃ達にも本当の持ち主がいるのかもしれない。もしそんな人らと出会う日が来るのなら、それは少し寂しいことかもしれないけれど、やっぱりその人にちゃんとおもちゃを返してやりたいなと思う。だから、そんな人たちと出会うためにも、僕はやっぱり明日に向けて眠るのだ。

そんなことを考えながら椅子に座っていたんですけれども、よくよく考えたら僕らがおもちゃ箱をひっくり返して遊んでるのって、何も劇場に限った話じゃなくていつだってそうだよね。今だってそうだよね。例えばこのブログを読んでいた貴方が、何かおもちゃが落ちているのを見つけたら、どうぞ遠慮なく持ち帰ってくれて結構です。それはきっと、僕のおもちゃではなく貴方のおもちゃなんだと思います。なんだかそんなことを考えたお芝居でした。

観劇を終えて劇場を後にすると、そこは土曜日の梅田なだけに人で溢れかえっていた。とぼとぼと一人家路へ向かう僕は、擦れ違うこいつらみんな『スーパーふぃクション』を観ていないんだなと思うとなんだかワクワクした。でももしかしたら、今こうして一人とぼとぼと歩く僕は、知らぬ間に『スーパーふぃクション』を観ている奴とも擦れ違っているかもしれない。そう考えるともっとワクワクした。

残念だけど、君はぼくのともだちなんかじゃないから、僕のおもちゃ箱を見せてあげることは出来ないけれど、せめて一緒におもちゃ箱をひっくり返す楽しさだけでも、いつか一緒に味わえれば、そんな風に出会えるその日を、僕はいつだって心待ちにしています。

大阪は2014年9月16日(火)まで、東京は2014年10月21日(火)から26日(日)まで。興味のある方は是非是非。僕に限って言えば僕は今最高の気分です。以上です。

*1:ちなみに前回騒いでた時の記事はこちらになります。
http://zuisho.hatenadiary.jp/entry/2013/08/24/202255
http://zuisho.hatenadiary.jp/entry/2013/08/27/010501