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棚橋さん

今僕の目の前にいる僕にしか見えない侍のことは鞘に納められた一振りの日本刀を僕に向かって突出している受け取れと言っているような顔で黙っている侍のことはひとまず置いておくとして、まずは僕と棚橋さんの話をしよう。

僕が棚橋さんを初めて見たのは中学一年生の時、僕が通っていた中学校は二つの小学校に跨るような校区で中学校のすぐ横には河川敷があってつまり大きな川がこの町を二つに割っていたのだけれども棚橋さんは僕の家から見て川の向こう側の小学校に通っていて僕は棚橋さんから見て川の向こう側の小学校に通っていて、そしてその二つの小学校に通っていた人たちは同じ中学に入学することになるので僕と棚橋さんはそこで出会った。出会ったというほどのことではない、同じクラスになった。それだけだ僕は最初棚橋さんのことを何となくいいなと思っていたのだけれど棚橋さんがどう思っていたのかはよくわからない、なぜなら会話をしたことがないからだ。中学二年生になるとクラス替えで僕と棚橋さんは別のクラスになった。僕と棚橋さんは会話をしたこともなければ友達であるはずもないので正確に言うならばただ僕がいて棚橋さんがいた1年1組というものがあって、それから僕は2年1組になり、棚橋さんは2年2組になったというただそれだけの話で僕以外の人間が「僕と棚橋さんが」という主語で何かを言っているのなんて見たことがないし、どこかで誰かがそんなことを言っているはずもないだろう残念なことだけど僕と棚橋さんについてこうして話したいことがあるのはきっと他でもない僕だけなんだと思うが二年生になると僕は棚橋さんのことを考える時間がとても多くなった。とても何となくでは済ませられないくらい棚橋さんのことを考えていたような今思えばするけど本当にそうだったのかわからない僕は棚橋さんのことばかり考えていたはずだ三年生のクラス替えでも僕と棚橋さんは同じクラスにならなかった。僕は二年生の時に棚橋さんが各クラスから男子女子一名ずつが選ばれるクラス委員をやっていたのを知っていたので僕もクラス委員になれば月に最低一回はあるクラス委員会議で棚橋と会えるのではないかと考えていたので本当はそんな柄ではないのだけれど三年生になった時に僕はクラス委員に立候補してクラス委員になったが四月の終りに初めてのクラス委員会議があったそこに棚橋さんの姿はなかった。これはその後すぐ知ったことなのだけれども棚橋さんは二年生の冬休み前に女子バスケット部を辞めていたらしいが、これが棚橋さんが三年生の時にクラス委員をやらなかったことと関係があるのかどうかは僕にはわからないそもそも棚橋さんがクラス委員をやらなかったことに理由など必要はない。だから関係があるのかどうかを考える必要も本当はないしこの頃から僕はクラスのみんなからハカセと呼ばれるようになったことも僕がクラス委員をやっていたことと関係があるのかどうか、これもわからない。メガネは小学二年生の時からずっとかけている。卒業すると僕と棚橋さんは別々の高校になった僕が進んだ高校は県内では有数の進学校で僕たちの中学校からは僕をあわせて10人くらいがその高校に進んだが僕と中学3年生の時に同じクラスだった平井くんと高校でも同じクラスになったため僕は高校でもハカセと呼ばれることになった。中学の頃は成績は常に上位5番以内だったが高校になるとみんな勉強ができて当たり前で僕は一番良い時でも33位悪い時では80位まで落ちたこともあった。それでも僕は高校の3年間ハカセと呼ばれていた。高校2年の時にコンタクトにした。高校の三年間でも僕は棚橋さんのことを考えることがあったむしろ結構あったもちろん高校で気になる女の子がいなかったわけではないただそれはそれ、これはこれで棚橋さんのこともちゃんと考えていた。僕は棚橋さんのことを考えていなくてはならないということもないので、ちゃんとと言うのもおかしいのだけれども、本当に結構な時間、僕は棚橋さんのことを考えていたはずだ高校で同じクラスになった女の子でちょっといいなと思う女の子ももちろんたくさんいたし、そんなに多くはないけれども女の子と普通に話をすることもあったそれでも一人になった時に考えるのは棚橋さんのことだったと思う今この瞬間は絶対にそうだったと思うわからないけど他の女の子のことを考えることもあったけれど棚橋さんのことを考える時間の方がもっとずっと長かった。僕は中学の時から棚橋さんがいないのに棚橋さんのことを考えるのに慣れすぎていたのかもしれない。そして大学受験にも無事に成功した僕は来月からは一人暮らしを始める。ところで誤解しないで欲しいのだけれど、別に僕は棚橋さんのことだけを考え続けて中学高校時代を過ごしていたわけでは決してない友達がいなかったわけではないし6年間続けた卓球についての思い出だってたくさんあるし、体育祭とか文化祭とかも普通に楽しかったし、大学に行ってからもきっとまた会って遊ぶことがあるんじゃないかなと思える友達だっているし、それじゃあなぜ僕がこうして棚橋さんとの思い出を、思い出なんてないのに僕は僕と棚橋さんについて話せることが何もないんだけど棚橋さんと僕はなんでもないし思い出もない、僕という人間を説明するにあたって棚橋さんの話をする必要なんてどこにもないんだけど棚橋さんは僕という今の人間を説明するのに必要ない一部でもない僕は6年間、勉強もしたし部活もしたし高校2年の時に同じクラスだった金子さんなんかはもし僕が告白をしていたらそのまま付き合えていたかもしれない。彼女を作るまでは出来なかったけどそういうのだってあったそしてそれは棚橋さんではない。普通に僕のことをわかってもらおうとちゃんと話すのであれば棚橋さんの話をする必要なんてどこにもないんだわかってるんだそんなことそれでも、それでも僕が棚橋さんの話をこうしてしているのはほかでもない今僕の目の前で中学が同じで高校も同じでだけど一度も同じクラスになったことは一度もない、さすがに中学が同じだったということで学校の廊下とかですれ違ったりした時におうとか言ったりなんだったら二言三言と何か話したりするくらいの関係だった武井くんが、僕と平田くんがせっかく中学から一緒だったんだし高校卒業しても連絡取り合おうねみたいなそういう確認の意味があったのかもしれない受験も終わったので久しぶりに遊ぼうよって話だったんだけどなぜか平田くんが武井くんも呼んで、なぜかということもない、そんなに話すことは多くもなかったけれど仲が悪かったわけでもないから武井くんがいても別に不思議じゃないんだけど武井くんが棚橋さんとどんなセックスをしたかをすげぇうれしそうに目の前で僕の目の前で喋っててすげぇうれしそう。僕は棚橋さんのことをいっぱいいっぱい考えてきたけれど実際に僕が僕の中で考えていたとかじゃなくて実際に僕が棚橋さんについて知っていること、とても少なくてまずは中学一年生の時と二年生の時にクラス委員をやっていたこと、二年生の冬休み前に女子バスケット部を辞めてしまったこと、これだけで、あとはなんか紅茶が好きとか嵐が好きとかそういうの中学一年生の時に同じクラスで会話しているのをこっそり盗み聞きして知った棚橋さん情報はたくさんあるはずなんだけれどももう5年間妄想してるもんでそういう細かい情報については本当に中学一年生の時に会話を聞いて知った正しい棚橋さん情報なのか僕が棚橋さんのことについて妄想するうえで作り上げた架空の棚橋さん情報なのかもはや僕にはその判断がまったくできないできないのでやっぱり僕が棚橋さんについて知っている正確な情報というのはクラス委員のことと女子バスケ辞めたこと、それに加えて今まさに真っ最中さっきから棚橋さんはフェラチオをする時にすごくいやらしい音を立てるとかバックから深く突かれるのが好きだとかアナルに指を入れても痛がらなかった気持ちよさそうだったとか今そういう情報がリアルタイムで、武井くんの口から発せられ、中学三年生まではそれでも何かしらあったのかもしれない、そこで聞いた何もかもが最早本当の棚橋さん情報なのか僕の妄想の棚橋さん情報なのかわからないけれど、僕にはもうわからないけれどもそれから実に三年ぶりに僕は生の棚橋さん情報をすごい勢いでゲットしている棚橋さん情報がどんどんどんどん更新されていってるまっただ中、僕は自分でもどんな顔をしているのかわからないかなり顔が赤くなっている気がする棚橋さん棚橋さん棚橋さん棚橋さんはそんなセックスをするのか棚橋さんのことを今僕はこの6年間で一番棚橋さんのことを考えている今棚橋さんのセックスの話が武井くんの口から発せられるそれは僕の耳に届き僕の中に真実の棚橋さん情報としてインプットされる。そうか、棚橋さんはそんなセックスをするのか、いや、違う待て違うこの棚橋さん情報は確かに真実ではあるが棚橋さんにおけるセックスについての習性という話ではない、武井くんが棚橋さんとセックスをした、その結果について僕は今武井くんから聞いているのだ武井くんだからそんなにジュボジュボと音を立てて棚橋さんはフェラチオをしたのかもしれない武井くんじゃなければもし仮に僕であればそんなに嬉しそうにフェラチオはしないのかもしれない僕が棚橋さんとセックスをすることを仮にでも考える必要があったのであろうかいやないここまで書いてある通りだ僕と棚橋さんがセックスをする可能性はこの世のどこにもない、しかし棚橋さんはセックスをするのだ、したのだ、武井くんとセックスをしてだから武井くんはここにいる、いや違うけどそんなこととは関係なく武井くんはいる武井くんと棚橋さんはセックスをする必要などない、付き合ってるわけでもないらしい武井くんは笑っている武井くんと棚橋さんは僕と棚橋さんと同様にセックスをしなくてはならないわけではなかった僕と同じだしかし武井くんは棚橋さんとセックスをした。僕は棚橋さんの話を人にしたことなどこれまでに一度もなかった平井くんにも一度も話したことがないから平井くんも僕が棚橋さんのことを好きだったことなんて平井くんは知らないだろうバレたくなかった恥ずかしかっただから僕は棚橋さんの名前なんて口にしたことがなかったすると誰も僕に棚橋さんの情報を教えてくれることはなかった、だから僕は一人で棚橋さんのことを考えるほかなかったそうやってずっとやってきた今日だって武井くんは突然に始めたのだ棚橋さんとヤっちゃったんだと武井くんは誰も聞いてないのに教えてくれた僕が棚橋さんのことを誰にも聞かなかったから誰も教えてくれなかった棚橋さんのことを武井くんは聞いてもいないのに棚橋さんのセックスのことを話し始めた嬉しかったのだろう嬉しかったのだろう武井くんは棚橋さんとセックスできて嬉しかったのだろうさぞ嬉しかったのだろうそんな風に頭がぐるぐるぐるぐるしているうちに気付いたら目の前にいたのがこの侍だ。この侍はどうも平井くんと武井くんには見えていない僕にしか見えてないようで平井くんと武井くんは今は好きなAV女優の話をしている棚橋さんの話は終わってしまった武井くんはもう満足してしまったのか僕はまだ考えているずっと考えている棚橋さんがセックスしていることをずっとずっと考えている侍は手を突き出しているずっと僕の方に手を突き出している刀を持っている刀を持った手を僕に突き出している口を真一文字に結びじっと僕をにらみつけながら何も言わず、鞘の、鍔のすぐ下のあたりをむずと握りしめまっすぐに僕を睨み付けている。僕が、武井くんを斬っても、僕と棚橋さんがどうなるものでもないそんなことは分かっているけれど、侍の目は、僕に斬れと言っている。